8th






「ん…………」

うっすらと目を開けると、視界いっぱいに金色が広がっていた。

フェリア!気が付いたか?!」
「…………エド」

エドがこちらを覗き込んできた。
フェリアはそれをジィッと見つめ、弱々しく笑った。

エドが生きている。

「エド……エドが守れて……よかった……」

儚い微笑みなのに、その表情に曇りはなかった。

その反面、エドの表情は硬かった。

「何言ってんだよ!こんな真っ青な顔しやがって……」

フェリアの肌はいつも異常に血の気がなかった。
赤みがなくなって、笑う唇まで青くて、とても安心できる顔ではなかった。

「よかったフェリア……半日ぐらいずっと寝てたから……」

アルもベッドに寄ってきた。

「重めの貧血だとよ、医者がそう言ってた」
「そう…………」
「…………もう、話してくんねぇか?フェリアの事……」

すぐ近くには真剣な目でこちらを見るエド。

「…………」

フェリアはシーツから右手を出した。
この掌から血が吹き出たのに、傷は何一つない。

「……見たでしょ?私の錬成……」
「あぁ……やっぱり、フェリアもアレを見たんだな?」

アレとは恐らくあの時見た映像……。
その言葉に見覚えがないアルだけは、首を傾げていた。

「……見た」

天井を向く翡翠の瞳を見つめ、エドは次の言葉を待った。

「……お兄ちゃんを錬成した……」


そう、禁じられた技、人体錬成を行った。


「私……早くに両親なくして、お兄ちゃんがただ1人の肉親で……」


フェリアは記憶にある遠い日の兄の姿を浮かべた。


「お兄ちゃんが全てで、お兄ちゃんが大好きで……何でもお兄ちゃんの真似をした……」

錬金術もそう。
兄が錬金術師だったから、私も錬金術を学んだ。

「だから……お兄ちゃんが……『殺された』時……どうしていいか分からなくなった」


ゴメンね、エド。
まだ全部は言えないの。


「後になってみると、取り憑かれたみたいに錬成式を構築して、取り憑かれたみたいにお兄ちゃんを錬成してたと思う」
「…………そうか…」


エドは俯いた。
優しい人だから、自分の過去も思い出して、その辛さを私と合わせてるんだね。


「でもフェリア、何かを持ってかれたようには見えないけど……」

アルが恐る恐る聞いてきた。


エドは右手と左足。
アルは体全部。

フェリアには外見に欠けたところはない。


不思議そうな2人に青い顔で笑ってみせた。

「私が持ってかれたのは……生きた血」
「「血……?」」

声がハモってその単語を口にした。


そう、『血』…………


「真理を見てから……私は錬成をするたびに血が吹き出るようになった。
……違うね、何かを錬成しようとすると、代価は全て私の血になる」

「「う~ん………?」」

聞いた事もない現象だから無理もない。

「手を叩いて……例えば、石の形を変えようとするでしょ?でも出来たのは石のような、血の塊……」
「血でできた石……」
「私の血で、何でも錬成されてしまうの」
「…………」
「錬成しようとすると体の中から皮膚が裂けて、血が溢れて……その後傷口は塞がるけど、血は元に戻らない……」
「……なんだよそれ」
「何でそうなるかわからないけど……それが真理の意志なのかもしれない……」
「だから……持ってかれるのは『生きた』血なのか……」

エドが深刻な顔をして俯いた。
それが何となくすまなくてフェリアは困ったように笑った。

「昔はこんなんじゃなかったんだよ?普通に等価交換して、普通に錬成してたんだから……」

大気中の光を凝縮させ、分解し、再構築する。
私の得意だった光の剣も、今では赤黒い罪の剣。

「これが……私の罪。錬成のたびに出る血飛沫に、私の罪の重さを思い知らされる」
「だから、ずっと錬成したくなかったのか……」
「…………そう、かな……」

「あの男達は?」

エドは核心をついてきた。

「あの男達が……フェリアの兄を殺したのか……?」


『兄を殺した』

その言葉に一瞬だけ反応してしまった。

だけど、私はエドの優しさに甘えた。
まだ本当の事を言える勇気も覚悟もない。


「…………」
「…………そうか……」


エドは私の黙りを肯定と受け取ってくれた。


「………私の全てだったお兄ちゃんがいないのと、そんなお兄ちゃんをもう一度殺してしまった私は……」


生きる気などなかった。
死にたかった。
こんな私を殺して欲しかった。
お兄ちゃんを殺した私など、死ねばいい。


でも…………


「何もかもが怖くなって、逃げた。男達からも、自分からも……」
「…………」
「それで、生き倒れそうになった時……大佐に拾われた」











―――「……目が覚めたか?」―――


「…………生きてる…」
「ここは私の部屋だ。君が道に倒れていたので連れてきた」
「…………んでっ……」
「どうした?」
「何で……助けたの……」
「倒れている人を助けるのは当たり前だろう?」
「……このまま死なせてくれればよかったのに……」
「何を言う。見殺しにしろと言うのか?」
「……殺して……私を殺して……っ……いや……いやぁ……!」
「お、おい……!」
「いやああぁぁぁ!!!死なせてよぉぉ……!!殺してよぉぉぉ……!!!!」


―――「誰か……私を殺して…………」―――











「大佐に言われて、私は国家錬金術師になった」
「何でわざわざ……」
「一言だけ……『この二つ名でもう一度生きろ』って……」
「…………」


「私は…………斬血の錬金術師」


血に操られる錬金術師。


「……わかった。すまなかったな、辛い事思い出させちまって」
「ううん、もういいの……」


確かにこの罪は消えない。
この血は私を蝕み続ける。


でも……エドを守れた。


「私は嬉しいの……この穢れた錬金術でも、守る事ができた」

フェリアは柔らかく笑った。

「エドを……アルを……」
「でもお前……それって錬成をやりすぎれば……」


錬成をするたびに出血を繰り返す。
つまり、持ってかれる血が尽きれば……

それを聞いても、フェリアは笑顔を崩す事はなかった。


「いいの、エド……」

その優しい瞳が、どうしようもなく怖かった。











翡翠の瞳をもう一度開くと誰もいなかった。

「エド……アル……?」


エドだって、まだ腕は完治していないはずなのに何処行ったんだろう。


「……『斬血』の錬金術師、か……」

立ち上がって、部屋の窓を開けた。
外は眩しい。

呪われた名前を口に出しても、何でこんなに胸が温かいんだろう。


エドが守れた。

その事実が霞がかっていた私の心を晴れやかにさせる。

エドを守りたい。

痛みも血も罪も覆い被せて、その想いが心を満たす。



ガチャ……


「……!フェリア!!」

エドが私を見るなり飛んできた。

「何起きてんだよ!まだ寝てろよ!」
「え……だってもう大丈夫だし……」
「顔が真っ青なんだよ!」
「それは錬成で……ひゃっ……!」

エドに肩をがっしりと掴まれて、そのままベッドに座らされた。

「いいからじっとしてろ!」
「う、うん……」


何でそんなに怒ってるんだろう?


「はいフェリア、おみやげ」
「あ、ありがとう。……な、何コレ~……!」

アルに貰った包み紙を開けると、中には生臭くて赤黒く光る物体があった。

「レバーだ。食べると血を作る働きをしてくれるって話だ」
「えぇ…………コレ食べるの……?」
「当たり前だろ!後で焼いてやるから食えよ、な!」
「え……ちょっとコレは……」
「いいから食え!!」
「う……うん……」

至近距離で迫られたらNoとは言えない。


私にわざわざ買ってきてくれたのかな……
血を作る作用があるって言ってたし……

エド……心配してくれてるんだ……


「ありがとう、エド……アル……」


優しいんだね2人とも。


だから、これからは私が守る。


たとえ……この穢れた血が尽きる事になっても……











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さあ、どうでした?
説明の話でしたが、皆さんわかりましたか?

分からない方に簡単な基本事項↓
1、ヒロインは兄貴を錬成して失敗(なのかな?)、手を叩いて錬成できる。
2、ヒロインは真理によって、錬成する時に血が出る。
(感覚的には、血から何かを錬成してる……という感じで)
3、傷口が強制的に出来る訳だからそりゃ~痛い。
4、自分の血ですから、やりすぎれば……

こんだけ理解して頂ければ、そのウチ全部の秘密が明かされる……と思います。