血にまみれても、望むものがあるなら。






7th






部屋の中で、何やらドタバタと音がする。


「……っつ……!」


エドは左腕を押さえた。
包帯で巻かれたそこからは、薄く赤い色がにじんでいた。

「くそ……やっぱまだ治らねぇな……」


気を取り直して屈伸をする。
足は大分動かせるようになってきた。

「いい感じいい感じ!」


バタンッ!!


そこで扉が勢いよく開いた。

「…………エド!」
「兄さん!またベッドから出て!!」

フェリア達は慌てて駆け寄った。

「大丈夫だって。いつまでも寝てられないし」
「そんな……!まだ腕だって十分に治ってないんだから!」
「そうだよ兄さん!病人は寝てないと!」
「だいじょう……あ!こらアル!!俺を軽々と担ぎ上げんなぁ!!」

アルは暴れる兄を抱えベッドに強制送還した。

「だああぁぁぁもう!!寝てる場合じゃねぇんだよ!!」
「兄さんってば!!」
「アル!お前だってわかってるだろ!!」

アルは動きを止めた。

「……エド……?」

エドは真顔になってフェリアを向いた。

「……あいつらはまた来る」
「………!!」


わかってる……わかってるけど……!


「だからこんな所で寝てる場合じゃねぇんだ」
「兄さん……」
「あいつらはいつ来るかわかんねぇ。今日かもしれないし、明日かもしれない」
「…………」


そんな!

もうエド達を危険な目に遭わせたくない!


「…………やめてエド」
フェリア……?」
「……エドが戦う理由なんてない。あいつらは私が目的なんだから」
「…………」
「エドには関係ないのに!」
「……フェリア
「だからもうやめて……!私なんかのせいでもうこれ以上―――!!」
フェリア!!」

フェリアは言葉を詰まらせた。

「……これは俺の戦いでもあんだよ」
「え…………?」

エドは血のにじんだ腕を見た。

「負けて……このまま逃げるなんざ、俺のプライドが許さん!」

またしてもベッドから這い出ようとする。

「……エド!!もういいから!」
「俺の気が済まないんだよ!あのいけ好かねぇ野郎をぶん殴らねぇ事にはな!!」
「そんな事言ったって、傷も治ってないじゃない!」
「いつ来るかわかんねぇだろ!」
「だから……何でそんなに……!!」


戦おうとするの……?!
私のせいなのに……!


「今エドが戦っても、絶対勝てない!!」


もう傷ついてほしくない……!
死なせたくない……!


「戦ってほしくないのよ……!!」




「いいねぇ~愛だねぇ~~~vvv」
「「「!!!」」」

バッと3人が声のした窓を向く。

この前のヒョロヒョロした男が窓の桟に腰掛けていた。
……確か、ここは2階だったはず!


「やめといた方がいいよぉ~おチビちゃん。今度は死んじゃうよ~?」
「!!テメェ……!!」

エドが立ち上がって窓に迫ろうとした。

「エド!」
「兄さん!」

アルが間に入って、エドを抑えた。

「兄さん!僕がやるから!」
「アル!お前は下がってろ!」
「病人が戦える訳ないじゃないか!!少しは自覚しなよ!!!」

アルの怒声にエドは少しひるむ。

「僕が戦う!!!」


嫌ぁ……アルまで……!!


男はニヤリと口角を上げた。

「鎧君が遊んでくれるの~?じゃあここは狭いから下でね♪」

男はそう言うと視界から消えた。
窓から下を見ると、通りの真ん中でこっちを見上げていた。

また、あの歪んだ笑い。

「兄さんとフェリアはここにいなよ!」
「アル!!!」

アルは窓から下の通りへ飛び降りた。

「くそっ……あの馬鹿……!!」
「あ……エドっ……!」

エドは部屋から飛び出していった。

フェリアは足が動かなかった。

全身が痙攣するように痺れて、記憶が私を阻む。
頭が痛い。両手で押さえても一向に痛みはなくならない。


何で……!

何でエドとアルばかり……!!

嫌だよ……!
もう嫌だよ………!!

『私のせい』はもう嫌ぁ……!!




―――「可哀想にね……お兄ちゃん……」―――



お兄ちゃん……!!



―――「大事なフェリアちゃんに2度も殺されて……」―――


狂気の笑みに見下ろされ、私にも狂気が走る。


いやああぁぁぁ……!!!!

もう誰も死なせたくない!!


エドを死なせたくない!!
アルを死なせたくない!!




―――「フェリアが守りたいと思ったなら、どんな事をしてでもその人を守りなさい……」―――

「!!!!」


アルを守りたい。
エドを守りたい。


「…………そう…………守りたい」


―――「罪の色、真っ赤な血……」―――


フェリアは首を振った。
何かを振り払うように。


「……私の錬金術は守る為に使う!!!」











「さぁ始めようか、鎧君」

アルは構えた。

「……おチビちゃんもやるかい?」
「!!兄さん!!」

隣を見ると、息を切らしながら構えるエドの姿が。

「てめぇだけは……ぶっ飛ばす!!」
「しょうがないな……なら……僕もやるよ!!!」

男はクツクツと狂気の混じった高笑いをした。

「いいね……いいよ、君たち兄弟は。君たちが傷つく分、フェリアちゃんが壊れていくんだから」
「何……どういう意味だよ?!」

エドが男に飛びかかろうとした。

「待って!!!エド……アル……!!!」
「「フェリア………!?」」

振り向くと、静かに歩み寄ってくるフェリア

「何で来たんだよ!」

それには笑って答えた。



罪の錬金術でもいい。
エドを守れるなら。

死とか罪とか関係ない。
エドが守れるなら、そんなもの関係ない。

この手を使うたび罪が溢れてきても、それでもいいんだ。


…………お兄ちゃん。

許してくれるよね。
お兄ちゃんを殺したこの手、もう一度使うよ……。

エドが守れるなら。
エドが生きてるなら。



フェリアは2人をやり過ごして、男の目の前まで来た。
嫌な顔付きの男だった。

「……私を捜してたんでしょう?」
「そうだよ、フェリアちゃん」

ちらっと通りの屋根を向いた。
深くフードを被った人物がこちらを監視していた。

「……なら、私さえ連れてけばいいのに」
「なっ何言い出すんだフェリア!」
「ダメだよフェリア!!」
「エド!!アル!!!」

フェリアは今まで出した事のない声で2人を圧倒させた。

「大丈夫だから……」
フェリア…………」

その吹っ切れた顔に、何故かエドは嫌な感覚を覚えた。


「ん~でもなあ……いちおう殺せって言われてるんだよぉ」
「…………あの人に聞いてみたら?」
「ん~そうだねぇ……?」

男は頭上のフードに顔を上げた。
その隙にフェリアはゆっくりと男に近づいた。



パンッ!



「いっ……ああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」



ザシュッ…………!!



エドは何が起きたのかわからなかった。

フェリアが手を叩いて、錬成反応の青い光が走ったと思ったら、
次に響いたのはフェリアの苦痛に歪んだ叫び声だった。


一番驚いていたのは上を向いたヒョロい男。
震えながら懐を見ると、眉間に皺を寄せて自分の胸に手を当てているフェリア
己の背中からは、赤いものが突き抜けていた。

「な……に……っ……?」

フェリアがそれを引き抜くと、男は訳も分からず倒れて動かなくなった。
吹き出る血の海の中で。

「はぁっ……はぁっ……っは……!!!」
「……フェリア……!!」

エドは動けなかった。
この奇妙な光景に。

フェリアは死んだ男を一瞥した後、荒い息を吐きながら自分の拳を見据えた。

右の掌から伸びるのは真っ赤な塊。
赤黒い色を完全に被った剣だとしか言いようがない。
堅い刀身は暗く光り、その上にあの男の血がこびり付いていた。

鍔や握っている柄など、そんな言い表せられるものも深紅。

血で出来た、全てが血の色の剣であった。


「愚かな男だ。駒に使われただけと知らず……」

フードの男が頭上で声を発した。

痛みと眩暈に襲われる体で、フェリアはその男を睨み付けた。

「……確認したぞ。『斬血の錬金術師』、フェリア……エンディード……」

男はフードを翻して消えた。
また会おう、という言葉を残して。

「……フェリア……」
「……エ……エド……っ」

振り向くとエドは濃い金色の瞳を溢れんばかりに向けた。

「やっぱりお前……」
「…………いい……二つ名でしょ……?」


アルも驚きが隠せない。

フェリアは青白い顔で苦笑した。


「私の二つ名は……」

フェリアの血の剣が突如液体と化し、地に落ちた。
その新たに広がった泡立つ海は、普通の血にしか見えなかった。

「斬……血…………」
「!フェリア……!!」

ふっと倒れた所をエドに抱きかかえられた。

フェリア!しっかりしろ!!」


傷なのかわからないが、傷口があるだろう右手を手にとった。
しかし血がべっとりと付いてるだけで、傷口と呼ばれるものは何処にもなかった。


血まみれの、錬金術師。











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さて、ようやく過去がお目見えです。
……まだ前編ですがね。

ここからやっとドリーム的になるかもしれないっスね?(誰に聞いてる)