何もできなかった。
6th
「ねぇ兄さん、やっぱり病院行こうよ……?」
「いいって!大丈夫だって何度も言ってるだろ」
「そんな訳ないじゃんか!重傷なんだよ?!」
「血が出ただけで傷自体はそんなに酷くないんだって!」
何度繰り返されたのかわからないやり取り。
エドは病院に行く事を必死で拒んでいる。
体中包帯で大丈夫なはずないのに病院に行こうとしない。
静かなはずの宿はこの兄弟の言い争いで喧噪が絶えない。
それでも喧嘩がエスカレートしないのは、エドがベッドに横になったまま動けないからだ。
その姿が痛々しい。
「…………エド……」
フェリアは弱々しく声を掛けた。
エドはその声を聞いて、一転して優しい表情で笑った。
「大丈夫だからフェリア……」
「でも……」
この傷は私のせい。
あの男は私を追ってきたんだ。
エドは……私のせいで傷ついたんだ。
何故そんな風に笑うの?
起きあがれない程酷い傷なのに。
痛くない訳ないのに……
フェリアから涙が零れた。
「フェリア……」
「……っ……エド……」
「……フェリア、ちょっとこっち来い」
エドは無骨な鋼の手をヒラヒラさせた。
こんなになってまで私を慰めようとしないで。
私はまた罪を犯す所だったのに。
「……っ……!」
耐えきれなくなってエドに飛びついた。
上体だけにシーツの硬いような柔らかい感触を感じた。
エドの体温で、温かい。
「エド……!!ごめんっ……ごめんなさい……!!」
俯いて泣き続けるフェリアの髪を優しく撫でた。
本当は生身で触れたいんだけど、今はそうもいかない。
「何でお前が謝る」
「だって……っ……私のせいで……!」
「誰もフェリアのせいだって言ってないだろ?」
「でも……あの男は私を狙って……!」
「俺が勝手にしかけて勝手に怪我したんだ。それに……」
「…………?」
言葉を詰まらせたエドにフェリアは顔を上げた。
うっすらとエドの顔が桜色だった。
「フェリアを守れたから……後悔してねぇよ」
「…………!!」
心に染みるエドの優しさ。
な?と首を軽く傾ける仕草が私を熱くさせる。
それと同時に自分に対する恨みが湧き上がる。
過去に囚われ、動けなかった自分に……
何も、できなかった。
「ん…………」
エドは眠りについた。
アルは買い出しに行ってここにはいない。
突如、後悔が私を包む。
……守れなかった……
また死なせてしまう所だった。
また失う所だった。
また……罪を犯してしまう所だった。
エドは危険を顧みず私を守ってくれた。
なのに、私は怖かった。
手にべっとりと付いた血が、私の罪を呼び覚ました。
お前はまだ、この手を使うのかと。
罪を犯したこの手をまた使うのか……と。
この手を使えばエドを守れたはずなのに、私はいつ死んでもいいはずなのに、何故痛みを恐れる……?
何故血を恐れる……?
エドとアルを守りたかったのに……
「エド…………」
髪に触れた。
金糸が指に絡みつきすっと溶ける。
傷のせいか、汗が少しずつにじみ出てきた。
顔も淡く発色して、大きな呼吸を繰り返す。
……生きてる顔だった。
……私と違って。
―――「フェリア……」―――
金髪の青年の声がする。
これは……私の記憶だ。
私と同じ翡翠の瞳が小さな私を包む。
これは………………夢なのかな?
「『錬金術師よ、大衆の為にあれ』……」
「『たい……しゅう』?」
幼い私が見上げて聞いた。
「この世界にいるみんなって事だよ」
「みんな?」
「あぁ、フェリアの友達やお兄ちゃんの友達、近所のおばさんやまだ会った事のない人達みんなだ」
「ふ~ん」
遠い目で話すこの人が、大好きだった。
「錬金術師はみんなの為にその力を使いなさい、っていう有名な言葉さ」
「フェリアのれんきんじゅつも?」
「そうだよ、お前の錬金術もだよ」
「ふ~ん、そうなんだぁ!」
大きな目を輝かせて喜んだ。
「……でもね、フェリア」
「…………?」
「本当は……『みんな』じゃなくてもいいんだ」
「なんで?」
私の頭を柔らかく撫でた。
その優しい翡翠の瞳に、いつもなりたいと思ってた。
「自分の近くにいて、守れる人だけ守ればいいんだよ」
「え~?そんなのだめだよ~~」
「ハハ……。いつかフェリアにもわかる時が来る……」
あの時は何の事だかわからなかった。
「たった1人でもいいんだ…………」
―――「自分に守れる力があるのなら……1人でもいい、必ず守るんだ……」―――
―――「フェリアが守りたいと思ったなら、どんな事をしてでもその人を守りなさい……」―――
必ず守る……
あいつらはまたすぐにやってくる。
今度はエドを、アルを、殺すかもしれない。
それは嫌……もう嫌だよ……
私のせいでこれ以上近くの人を死なせたくない。
でも……私の手は血にまみれてる。
できるのかな、私に……?
守る事ができるのかな……?
ねぇ……お兄ちゃん…………?
「あれ、フェリア寝ちゃったの?」
帰ってきたアルが最初に目に入ったのはベッドに突っ伏して寝てるフェリアと、その髪を梳く兄の姿。
「あぁ……泣き疲れたんだろ」
しょうがないな……っていう顔が穏やかで。
その2人の中に無遠慮に入ってしまった事をアルは少し後悔したが、平静を装って荷物を机においた。
フェリアは目を覚ます気配がない。
それを確かめて兄に尋ねた。
「ねぇ兄さん……フェリアって……」
「……あぁ……多分な」
アルも同じ事を考えていたらしい。
エドの記憶に残っているのはあの男の台詞。
『そのおチビちゃんも人体錬成をしたんだろ?』
チビってのには腹が立つが、大事なのはその後。
俺『も』……
つまりは、フェリアも……
その事であの男はフェリアを探してたのだろうか。
「……あいつらは必ずまた来る」
「うん…………」
「今度は本気でしかけてくるぞ」
「兄さん……」
アルが心配そうに窺った。
それを笑って受け流した。
「いいさ、余計な事に首を突っ込むのはいつもの事だからな」
「……フェリアの事はどうするの……?」
隣で静かに寝ている少女を眺めた。
青白い肌に、長い睫がきわだって輝いている。
愛らしいその寝顔に、笑みが零れる。
「フェリアが話してくれるのを、待つさ……」
エドはフェリアの頬に触れた。
柔らかくて、温かかった。
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きゃ~エド好きぃvv
アニメエドの声を思い出して、マジで興奮してる私(帰れ)
ちなみに何故病院に行かないかというと……
病院だと後の展開を絡めるのがメンドイからです。(うわ……)