「ねぇ兄さん、また徹夜したの?」
「……ま、まぁ……そんなとこ」
「でも徹夜にしてはいつもよりやつれてるけど……」
そう思わせるのはエドの目の下のクマ。
視線を下げてどんよりと疲れが漂っている。
「兄さんとは正反対でフェリアは珍しく元気だし」
「ハハ……」
ゲッソリ顔で街を歩くエド。
フェリアは1人で先に進んで通りの店を覗いている。
2人より前に歩き出たのはこれが初めての事。
いつも自分からは何かしようとしなかったフェリアが、輝く金髪をなびかせていた。
表情がないのは相変わらずだけど、時折嬉しそうに口を持ち上げる。
『儚い』が似合う存在に、エドは苦笑するしかなかった。
昨夜の色々な出来事で少し恨みがましく思ったりもしたが、今はそんな気持ちはこれっぽっちもない。
「フェリア!そんな早く行くなよ!」
フェリアは振り返ったが立ち止まって動こうとしない。
じぃっとエドを見つめ、何かを目で訴えていた。
「何だ、それが欲しいのか?」
『それ』とは店の商品。
少女の顔は恥ずかしそうに頷いた。
「……しょうがないな……」
エドは笑いながら溜息をついてフェリアの傍まで早足で駆けた。
「……全然面倒くさそうじゃないよ、兄さん」
そうつっこむアルもどことなく嬉しそうだった。
fifth
――見つけたよ、フェリアちゃん――
「え……?」
フェリアは振り返った。
でもその声の主は見当たらなかった。
「どうした?」
「……何でもない」
平静を装うけど、悪寒を誘う声に背筋が冷たくなる。
「何処を見てるんだい、フェリアちゃん?」
バッともう一度背後を仰いだ。
そこには背が高くヒョロリと立った男がいた。
嫌に口元を歪めている。
「ずっと探してたよフェリアちゃん。金色の髪に翡翠の目」
「!!」
ビクッと肩を強張らせた。
男は異様なオーラを出して少しずつ近づいてきた。
「太陽に閉ざされた月の娘」
「あ……嫌……嫌ぁ……!」
フェリアはエドの後ろに隠れ、赤いコートを掴んだ。
その目は発作の時のように見開いて焦点が合っていない。
「何だ、アンタ」
腕でフェリアを庇い男を睨み付けた。
「何?今度はこのおチビちゃんがナイト?」
笑いを堪えきれない様子でエドを見下す男。
エドの顔に青筋が走る。
「誰が……豆粒ドチビだああぁぁ!!」
「こんなのでフェリアちゃんを守れるとは思えないよ、ねぇ?」
「無視かコラァァ!!」
エドが髪の毛を逆立てた。
「あ、いたの?」
「殺す!ゼッテェ殺す!!」
「ん~売られた喧嘩は買うけどぉ?」
「上等だコノヤロ!!アル、フェリアを守ってろ!」
「兄さん!」
アルにフェリアとコートを預けた。
「エ、エド……!」
フェリアを一度振り向くと、大丈夫だ、という顔をして男に走っていった。
パンッ!
手を叩いて右手の機械鎧を剣に変える。
そのまま男に切り掛かった。
が、男は人間技とは言えない跳躍をして屋根に登った。
「テメェ!降りてきやがれ!!」
「おチビちゃんにはちょっと高すぎたかな?」
ブチィ!!
「あ、兄さんがキレた」
アルの予想通り、エドは人の迷惑も考えず石の階段を錬成した。
それに飛び乗ると屋根の上に消えていった。
「…………エド」
「大丈夫だよフェリア。兄さんなら負けないよ」
フェリアは弱々しく首を横に振った。
男の顔が忘れられない。
あの時と同じ歪めた口元。
『私』を知る男。
嫌……あの顔は嫌……
私を狂わせる笑いが聞こえる。
――「可哀想に……」――
頭が痛いよ……エド……
ドサッ!!
「きゃあああ!!」
その場にいた女性の声の元に走ると人影がうずくまっていた。
「!!……エド!!」
フェリアは慌てて駆け寄った。
エドは意識はあったが起きあがれそうにはなかった。
「エドしっかりして!!」
「あ……あの野郎……!」
血がみるみると円を描いて広がっていく。
右腕と左足以外、つまり機械鎧ではない所から血が溢れている。
特に左腕の傷が深く、エド自身も痛そうに押さえている。
「あらら、ちょっと痛めすぎたかな?」
男が嬉しそうに降りてきた。
「テメェ……生身ばかり攻撃しやがって……」
「だって、生身じゃないと痛みも血の色もわからないじゃん」
「く…そ……!」
血が大量に流れたからか目が霞む。
立ち上がろうと思っても力が出ない。
「エドやめて……!」
フェリアはエドを抑えた。
「そのおチビちゃんも人体錬成をしたんだろ?」
「「!!」」
「いいねぇフェリアちゃん。傷の舐め合いってねぇ?」
フェリアの顔が引きつった。
「兄さん!!」
アルは男に殴りかかっていった。
だが男は素早くよけるとアルの腹を蹴り飛ばした。
速い……!!
もう一度構えようとする一瞬の間に男が迫ってきてアルの頭を蹴り上げた。
アルの頭が外れ、中の空洞が露わになった。
「ふぅん……」
男はさらに口角を上げた。
そして後ろからアルを地面に押さえつけ、鎧の隙間から血印の近くに石の破片をあてがった。
「アル!!!」
どうしてゴボウのような男にこんな力があるのか知らないが、アルの力が負けている。
人質にとられたアルの『魂』に、エドは必死に立ち上がろうとする。
しかし出血するばかりで動けない。
「美しい兄弟愛だねぇフェリアちゃん」
「や、やめて……!」
「兄の弟を想う心、弟の兄を想う心」
「やめて……!」
「罪を犯してまで弟君が大事だったのかなぁ?」
「エドとアルの事を悪く言わないで!!」
フェリアは堪らず立ち上がって男を睨み付けた。
隣には鋭い目をしている血まみれのエド。
正面には身動きが取れないアル。
そしてあの男は笑いだした。
「『兄妹』に『罪』、みんなフェリアちゃんがやったんだよ?」
「!!」
フェリアは自分の掌を見た。
そこにはベットリとついた赤黒い血。
「あ………」
動けない。
目の前に憎む男がいるのに足が進まない。
エドが苦しんでいるのに、手は凍り付いて動かない。
「フェリア!下がってろ……!」
「エ……エド……!」
「お……前は……逃げろ!!」
そんな事できないよ!
今戦えるのは私しかいないのに!
私が戦わないといけないのに!
なのに……私は動けなかった。
「何をやっている」
それはまた屋根から聞こえた。
「お前の任務は見つける事だけだ」
低い声が淡々と告げた。
振り返っても姿は見えない。
見かけヒョロい男はその声を聞いて困ったように顔をしかめた。
「やっと見つけたんだから、少しくらい遊んだって―――」
「お前の役目は終わったと言っている」
「……ちぇっ」
アルに跨った男はつまらなさそうに屋根に跳んだ。
「またねフェリアちゃん」
射抜く目を投げつけ男は消えていった。
「……くそ……フェリア……っ……!」
それだけ言うとエドは意識を手放した。
「エド!ねぇ大丈夫?!」
「兄さん!!」
肩を揺らしても反応はなかった。
血の色が妖しく光っては掌から零れていった。
Back Top Next
エド&アル弱っ!(笑)
戦闘シーンも省きやがって(スイマセン)
た、たぶん敵さんの方が強いんです!
そうなんです!敵が強いのなんのって!(自分で書いといて……)
そろそろヒロインの素性が明らかにできればいいかな?