――「お前も国家錬金術師になってしまったのか……」――


――「いい子だねフェリア……」――


いやああああぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!


――「フェリア……」――


ごめん……ごめんなさい……お兄ちゃん……


――「これが私の罪……」――


――「殺して……!私を殺してよぉ!!」――


――「何で……死なせてくれないのよぉ……大佐ぁ!」――






fourth






ガバッ!!


「……はっ……っ……!!」

夢。夢だけど夢じゃない。

「はあっ……はあっ……!」

フェリアは両手で自分の肩を抱いた。
全身の震えが治まらない。

「……っ……うっ……」

ボロボロと涙が止めどなく溢れる。

足を引き寄せて縮こまってもさっきの悪夢が頭から放れない。
体の震えは落ち着くどころか、一層手足の細部まで麻痺したように痺れてきた。

「ひっ……っ…く……」

最近はこの夢を見なかったのに。

目を開けているのに視界は闇に閉ざされている。

その中で見えるのは、歪んだ口と……血の赤。


「う……っ……誰かぁ……」


助けて……






コンコン……


恐る恐るドアを開けてみるとまだ部屋には明かりが灯されていた。
彼はベッドに足を入れているものの、寝ていた気配がない。

フェリア?どうし―――」

言い終わらないうちにエドの傍に駆け寄った。

フェリア?」

エドは本を閉じてフェリアの肩を持った。
俯いてて表情は見えないが、全身汗びっしょりで震えているのがわかった。

「…………ていい?」
「え?」

フェリアが顔を上げた。

「……ここで寝ていい?」

目には涙をいっぱい溜めてすがるように見上げてくる。
エドは思わずたじろいだ。

「あ、あぁ……いい……ケド」

ベッドの壁側に促してやるとフェリアはエドの体を跨いで入り込んだ。

「……ごめん」
「いや……変な夢でも見たのか?」

伝わる体温に高鳴る胸を押さえつつ聞いた。
フェリアは答えにくそうに俯せになった。

「…………ん……そんなとこ」
「そうか……」

それからまもなくフェリアの規則正しい寝息が聞こえてきた。






―――が。


……しゅ、集中できん!!


とりあえず再び開いた本は一向にページが進まない。

すぐ右を向けばフェリアの綺麗な髪とあどけない寝顔がある。
いつもどこか大人びているのに、こればっかりは普通の少女だった。


……男の部屋でのんびり寝息立てんなよな……


エドは参っていた。

いかんいかん!と本の文字を頭に入れようとしても、
時折聞こえる「ん………」などどいう吐息に文章が吹っ飛ぶ。
心臓までも飛び上がりそうだった。


はぁ……疲れる……


「………いや……」
「え?!」

このよこしまな感情を見抜かれたのかと心底焦った。
だが反応はない。

「……寝言かよ」


何の夢見てるんだか……


「……いや……だ…………」

「……集中できねぇって……」

エドは本を必死に読んだ。
気になる寝言も耳に入れないように努めた。



「……こ……ろして……」
「………え?」
「い、いやああぁぁ!」
「お、おいフェリア?!」

エドは青ざめたフェリアの顔を覗き込んだ。
全身が痙攣を起こしだした。

「はあっ……!いや……!いやあぁぁ……!!」
フェリア!」

ペチペチと軽く頬を叩いた。

「っは…………!はぁ……っ……ん……」

顔を歪めながらも大きく息を吸い込んだ。
まだ息遣いは荒いがさっきのような混乱はなくなった。

それにしても、こんだけ叩いても起きないフェリアに少し驚いた。

「くそ……世話が焼ける奴」


しばらくフェリアの寝顔を観察していた。
また騒がれても困るから、という理由でだ。
その他の理由はない……と思う。

フェリアは落ち着きを取り戻したものの、顔をしかめていた。

口がゆっくりと開いて言葉を発した。

「……お……兄……ちゃん……」

つぅっと一筋の涙が零れた。


はぁ……


エドは頭を掻いた。

知ってはいけない過去を知ったような気がしたから。
それと同時にフェリアの過去を色々と推論を立てている自分がいる。

こんな発作みたいなのが何度も起こる程のショックがあったんだろうか。
俺の錬成を見たときも様子がおかしかったし。

やっぱり……フェリアも―――


「…………?」


ふいにシャツの裾がキュッと引っ張られた。

エドが右を向いてみても、起きている気配はない。
無意識のうちに掴んだのだろうか。

どことなくさっきより表情が穏やかで、涙は途切れていた。


でも中身は子供だな……


エドは苦笑してフェリアの髪に指を通した。
それに反応するようにフェリアが微笑んだ。

「……エ……ド……」


ドクン……


今度は本当に心臓が跳ね上がった。
ただ名前を呼ばれただけなのに、何かが込み上げてくる。

エドは自分の顔が真っ赤になるのを感じた。
手足が棒になった気分なのに、体中の血は一点に集中する。

そおっとフェリアに近づいた。
バクバクいう心臓を必死で押さえつけ、起こさないようにゆっくり……

少しずつフェリアの紅い唇が迫ってくる。

色づきのいい唇はうわごとを言うたびに艶めかしく動いた。
少なくとも今のエドにはそう見えた。


ゴクン……


生唾を飲んだのが自分の罪悪感を引き立たせる。
でも体は一向に動きを止めない。

体が汗ばんできた。

唇まで、あともう少し。






ガバッ!


それはシーツの音だった。
エドが勢いよく反対側を向いてシーツを被っていた。


な、な、何考えてんだよ俺!
寝てるのをいい事に!

は、はあ~……しなくてよかった。


顔をひょこっと出して右を確認すると、フェリアはエドの葛藤を全く知らないまま寝息を立てていた。

「…………俺、寝れるかな……」

まだまだ夜は長い。

エドは少し後悔した。
それはフェリアをベッドに入れた事か、唇を奪わなかった事かは、自分でもわからなかった。











朝の鳥のさえずり。

それがフェリアの覚醒を助けた。


…………嫌な夢……でも……


いつもは鮮明に蘇る悪夢に体を震わせるのに、今日はそれがなかった。

あの夢の後、何故かゆっくり眠る事が出来た気がする。
その証拠に、久しぶりのすがすがしい朝。

「…………?」

軽く体を動かすと障害物があった。
しかもかなり大きくてフェリアを覆っていた。

ここでやっとフェリアは目を開けた。

「!!!」

声にならない叫びを上げて目の前の現実を認めた。

間近にエドの寝顔があったのだ。
しかもそれだけでなくて、腕がフェリアの背中にまで回っている。
つまりフェリアはうずくまってエドの腕の中で寝ていた事になる。

あまりに恥ずかしい状況にフェリアの頬が紅潮した。


な、な、な、何……?!
何でエドが寝てるの……?!


とりあえず昨夜の事を思い出してみる。


あ……そういえば、エドの部屋に押しかけてきたんだっけ……


目線を上げるとすぐそこにエドの顔がある。
どことなく目の下にクマが出来ていて、うなされているのは気のせいだろうか。

エドの金色の前髪が揺れてフェリアの頬に触れた。
寝顔は同い年らしくていつものエドの顔じゃなかった。


何故だろう……心がとても安らぐ。


大佐の時はこんな事感じなかったのに。
少し幼い表情が、私の罪を許してくれるような感覚に襲われる。

回された左腕が、心地よかった。


「んん……」

エドが目を覚ました。

「……おはよう」
「おぅ……」

とりあえずそう言っておいた。
言っておいて、何か大人な会話な気がしてフェリアは顔を赤らめた。

「ん~……俺、いつの間にか眠って―――」

はたと気が付いた。

抱いた己の腕の中にいるのはフェリア
こちらを見上げて柔らかく笑っていている、しかも顔と顔の距離は約20cm以下。

エドは完全に思い出した。
そう、昨日の悪夢のような時間を。

「っ………!!!」

エドは目玉を落としそうな勢いでベッドから飛び出た。
またもや心臓が躍り出して、体中の血が今度は頭に上った。

そこまで慌てふためくエドが少し面白かった。

「昨日はごめんね……?」
「……おっ、おぅ……!」
「その……嫌な夢を見たから…」
「そ、そうか……」


やっぱりエドは近寄りがたい存在じゃなかった。
本当は子供っぽくて、優しいんだってわかった。


「こんなにすっきりと寝られたの初めて……ありがとう、エド」

その笑顔はエドの脳裏に焼き付いた。
太陽を背にして金の髪が透き通って光っている。

昨夜の涙と痙攣が嘘のように思えた。

「………おぅ」

エドは笑って見せた。

この不思議な少女に、温かい眼差しで。











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う~ん……部屋の間取りがわからん。
つまり……南枕で、窓は東って事?(知らんがな)

少し話から脱線してほのぼの(?)