third
「ねぇ、フェリアの二つ名って何?」
アルがふと聞いてきた。
「え………?」
「だって国家錬金術師なんでしょ?」
「ま、まあ……」
「アル、別にいいだろ」
エドが困ってるフェリアの間に入ってきた。
「でも兄さんも気にならない?」
「俺は気にならん」
アルはエドの隣まで来て少し覗き込んだ。
「昨日何かあったの?急に態度が変わってるけど……」
「何もねぇよ」
「今までなんかずっとフェリアに冷たかったのに」
「別に……人体錬成に興味があるってのが嘘だってわかったから……」
「ふ~ん……」
アルは今度はフェリアの歩幅に合わせた。
「でも別に二つ名ぐらいいいんじゃないの?鋼とか焔とか格好いいよ?」
「え…………」
嫌だ。
あの「二文字」なんか、思い出したくもない。
「アームストロング少佐なんか『豪腕』だもんね。ぴったりな二つ名付けるんだよね、大総統も」
「………い……や……」
「やっぱりあれってその人の特徴に合わせた―――」
「アル!!!」
エドの喝でアルの口は閉じられた。
ついでに周りを歩いてる人達まで静まりかえった。
「……いい加減にしろ」
アルはエドの怒っている意味がわからず首を傾げていた。
「……やっぱり昨日何かあった?」
「あはは………」
フェリアは困ったように笑った。
エドを見ると、少し先に大股で歩く姿があった。
ありがとう、エド……
――もう………錬金術など……使いたくない――
エドはそれ以来何も聞かない。
それだけでなくて、アルの質問攻めからも守ってくれたようだった。
アルには必要な事だけ伝えて、後は黙ってくれてるんだね……
頑なな背中が、今は嬉しかった。
そう思っても、直ぐさまフェリアの心には闇が戻る。
でも……私の罪はなくならない……いつまでも……
この「二つ名」と共に……
フェリアは自身の掌を見つめた。
「兄さ~ん。こんな山奥に本当にあるの~?」
「うるせー……確かこの辺だって聞いたんだよ」
「そんな事言ったってさっきから看板ばっかだしぃ……」
エド達はとある山奥の村を目指していた。
ここまでの道中、
『お目当ての村まであと少し』
などという木の看板ばかりが目に付いた。
「あ、ほらまた看板」
『ほらほら、あともう少しだから!』
こんな感じでもう6回目。
さすがのアルでもうんざりだった。
と、いう事はエドはもっと苛々していた。
「またかよ!くそっ!看板ばっかで鬱陶しいんだよ!」
ガコン!!
エドが勢いよく看板を蹴り上げた。
すると元々腐りかけていたのか、いとも簡単にバラバラに崩れた。
「あ~ああ、こ~わした~」
「うるせぇ!」
「怒られるよぉ?」
「んな山奥の看板一枚ぐらいわかんねーよ」
エドはバラバラな看板を足蹴にしている。
と、よく見ると、下の方に小さい字で何か書いてあった。
『※壊したら地の果てまで追っ掛けて弁償してもらいます。』
「…………」
「…………」
よく被害にあるのだろう、ご丁寧に赤字で。
「僕し~らない」
「直しゃいんだろ直しゃあ!」
そう言いエドは手を胸の前で合わせた。
パンッと軽快な音がした。
「!!」
バシッ!
光る青い稲妻とともに、看板が元通りになった。
『まだ着かねーぞバーカ!』
さっきと台詞が違う。
それにその口の悪い看板を抱えているのは、木でできたクマみたいな置物。
「よし!さっきよりセンスがいいだろ!」
「……兄さん。やっぱりディティールが……」
「んだよ!俺の芸術にケチつけんのか?!」
「錬成陣なしでの……錬成」
「ん?」
今まで一言も喋らなかったフェリアの口が開いた。
見て分かるほど顔が青白く、微かに震えていた。
「……罪を犯した……証」
「「!!」」
兄弟は目を見開いた。
「フェリア……お前、知って……!」
「人体錬成の罪、禁忌……」
「…………」
3人は言葉を無くした。
「……軽蔑するか?」
エドは複雑な顔をして笑った。
それにフェリアは首を横に振って答えた。
そんな資格はないから……
「……エド、アル……話せる範囲でいいから、聞いてもいい……?」
「「…………」」
近くの木陰に3人は腰を降ろした。
どこからともなく水の流れる音がするから、近くに沢でもあるのだろう。
「…………死んだ母さんを錬成した」
エドはぽつりとそう言った。
「錬成は失敗。……で、右手左足と、アルを持ってかれた」
鋼の親指でアルを指した。
「ま、右手はアルの魂を錬成した時だったけどな」
「…………そう。じゃあ鎧にアルの魂を定着させたのね」
「……まぁな」
「……持ってかれたのはそれだけ?」
いつになくフェリアが真剣に見つめてきた。
「?あ、あぁ……でもよくそんだけ知ってんな。普通の奴なら手だけ見てもわからない―――」
そこでエドは言葉を止めた。
ある推論が頭に浮かんだからだ。
「お前……もしかして……」
それなら錬金術を使いたくないっていう理由にも合う。
「あ、いや……私は知識だけはあるから……」
フェリアは手まで振って否定したが、少し動揺していた事は見逃さないエドだった。
まぁ、今はそういう事にしておこう。
「…………そうか」
それだけ言ってこの話を締め、一行はまた看板がいくつもある山道を登っていった。
「……あれ?フェリアは?」
やっと着いた山奥の村で、エド達は真っ先に資料庫へ飛んでいった。
ここにも錬金術師がいたという話らしいが、詳しい事までは知らない。
「外じゃねぇの?あいつあんまし興味なさそうだし」
「ふ~ん……フェリアって何で僕らと一緒にいるんだろう?」
「知るか。そ~ゆ~事は大佐に聞け」
「今は大佐がいないじゃん~」
「屁理屈言うな。俺がわかるわけないだろ」
「…………むぅ」
アルは窓から入る風を感じた。
感じる事はできないが、今日がとても良い天気だという事はわかった。
「フェリア、暇だろうね………」
「…………」
エドは何かブツブツ言いながらも本を閉じた。
エドは草原でフェリアを見つけた。
声をかけようとした所で、はっと動きを止めた。
フェリアは目を閉じて、顔と全身で太陽を感じていた。
日頃の暗い表情はなく、どことなく嬉しそうにも見えた。
金の髪は光を吸収し一段と輝いていた。
「……何してんだよ」
翡翠の瞳が開いた。
その目にエドは何となく落ち着きがなくなった。
「……太陽の光を浴びてるの」
「んな事はわかってんだよ」
「だって、それしか言いようがない」
エドは隣に腰を降ろした。
手が草でチクチクする。
フェリアはまた目を閉じて顔を上げた。
「……好きなんか?そうやるの……」
「…………嫌いじゃない」
「ふ~ん」
何か曖昧な返事だな……
「なぁ、一つだけ聞いて良いか?」
「……何?」
「何で俺達と一緒にいる?」
「……大佐に―――」
「そうじゃなくて!別に嫌だと言えば止められるだろ?それなのに、何でだよ?」
横を向くと、少し濃い金の瞳がこちらを伺っていた。
「……大佐がエドとアルを選んだのがわかる気がするから」
「は……?」
「私は……他の生き方はないから」
「……ワケわかんねぇ」
フェリアは苦笑した。
「とりあえず、錬金術師でない生き方を知らないから」
「そんなの他にいくらでも……」
「平凡に畑でも耕して生活しろと?」
「まぁ、な……」
「エドならできる?錬金術を一切止めて……」
「う……それは………」
「そんな事してまで生きる気はないの」
「……フェリア?」
「今の私に生きてる意味などないから」
翡翠の目が冷たく、虚ろに灯る。
早口に喋るフェリアはいつもと明らかに様子が違う。
「私は生きていてはいけない」
「おい、フェリア……」
「これが私の罪だから。償う方法はただ一つ」
「おいって……!」
「私は、本当は―――」
「フェリア!!」
はっとフェリアは我に返り、確実にエドを視界に入れた。
「………私……」
「いい、気にするな」
「……ゴメン、話しすぎたみたい」
フェリアがバツが悪そうに俯くのをやり過ごす事しかできなかった。
「…………」
「…………」
フェリアには何かある。
でも、人には誰しも秘密がある。
気軽には立ち入れない心の奥底の闇が。
「エド……私からも聞いていい?」
「何?」
「どうして錬金術ができるの?」
「え?」
エドは意図する所がわからなかった。
「錬成陣なしでの錬成が、人体錬成を行った人への罰だと思わない?」
「う~ん……」
「手足とアルまでも持ってかれて……それでも錬金術を使うのね」
「まぁ、錬成は……便利だし」
エドは困って頭を掻いた。
「……俺には、これが全てな気がするから」
「その錬金術を使って、今度は元の体に戻りたいなんて……何か変だね」
「まあな。とりあえずアルだけでも何とかしてやらんと」
「…………いい兄弟だね」
「そうか?」
「そうだよ……」
フェリアは少し悲しそうだった。
「お前……やっぱり……」
「………何?」
「……何でもねぇ」
エドはその場でごろんと寝転がった。
「……生きてる意味なんてのがわかってる奴なんか、そういねぇよ」
「……エド?」
「誰もわかんないから毎日を必死で生きようとする。俺らだってただがむしゃらに生きてるだけだ」
「…………」
さっきの話についてエドなりに考えてくれていたらしい。
嬉しいけど……そういう事じゃないのよ、エド……
「まぁ……毎日きちんと生きる、それでいいんじゃねぇのか?」
「『生きる』……」
大佐も散々言っていた。
『生きろ!』と……
「それから意味とか見つければいいんじゃね?」
「……それまではエド達と一緒にいてもいいの?」
「なら逆に聞く。何で俺らと旅をする?フェリアの意志が知りたい」
真剣な瞳だった。
そんなエドが少し羨ましい。
だって……
「……貴方は生きているから」
「あ~……?」
「罪だとしても、腕も肉親も失っても、それでも貴方は生きているから……」
「……わかんねぇ」
「たぶん、大佐が言いたかったのはそれだと思う」
「ますますわかんねぇ」
エドは起きあがって髪や背中についた葉っぱを取り始めた。
「……結局、私はエド達といていいの?」
「俺は駄目とは一言も言ってないだろ」
「ふふ……エドって優しいのか意地悪なのかわかんない」
「んだと~!誰がいつ意地悪―――」
フェリアは笑っていた。
隣に座ってるという事もあって、大分至近距離で。
下から見上げるように俺を見つめる。
このまま顔を近づければ……
「!!」
エドが異常なまでにのけぞった。
「どうしたの?」
「……何でもねぇ」
「?顔赤いよ?」
「な、何でもねぇって!!」
「ふぅん??」
エドは立ち上がると一心不乱に大股で歩いていった。
な、何考えてんだ俺!
やべえよ!
ただ……フェリアが、その……
だあぁぁーー!!
何こんなに心臓バクバクさせてんだよ!
わかんねぇ……
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ほのぼのな回。
ういういしいエド君って初めてな気がする(……。)
また訳の分からない悟りが出てきましたね。
何なら読み飛ばしてくれても構いません(え?)