――俺はお前を信用してないからな!――


信用……?

何を信用できるというの……?

この穢れた私を……






second






この数日、私達は中央にいた。

が……


「兄さん!」

ガッシャガッシャ言わせてアルが小走りでついてくる。

「兄さんってば!」
「なんだよ!」

凄い剣幕でエドが振り向いた。

「何でそんなに速く歩くのさ!僕はいいけどフェリアは追いつけないよ!」
「……いいんだよ、あんな奴」

そう言ってまた歩き出した。

フェリアは後ろから必死で追いつこうとしていた。
でも途中で諦めたらしく、歩いているのが見えた。

「……何がそんなに嫌なの?悪い子じゃないよ?」
「人体錬成を研究する奴にはろくなのがいない」
「だからってフェリアもそうだとは限らないよ」
「…………」

エドは足を止めて振り返った。
遠くの方にフェリアがいた。

「……気に入らないんだよ」
「え?」
「何考えてるかわからねぇし、ほとんどしゃべらずに言葉通り付いてくるだけだし」
「それは、兄さんが睨むからだよ」
「うっ……それにしたってなぁ!何か……嫌な感じ」
「何が?」

その問いには答えずにエドは歩き出した。

「生きてる感じがしねぇ……」

ぼそっと言った。

「え?」
「な、なんでもねえよ!」
「もう、素直じゃないんだから~」
「うるさい!俺は先に行く!あいつと来るんだったら好きにしろ!」
「あ!兄さん!」

アルは走り去った兄の背中を溜息まじりに見た。

しばらくするとフェリアがやってきた。

「ごめんね、兄さん意地っ張りだから」
「…………」
「今まで生体錬成に関する事でいい思い出ないからさ、兄さん。僕もだけど」
「そう……」

フェリアは興味なさそうに俯いた。


私は……何をやってるんだろう……


こんな風な会話が幾日と続いた。

エドはいつもフェリアを見てあまりいい顔をせず、それを取り繕うのはいつもアルだった。

余程この演技が気に入らなかったみたいだ。
だから大佐は無能だと言われるのに。











「む~~ん……」

エドの唸り声が聞こえる。

エド達は今、十数件目の図書館に来ている。
いつもと同じ日課だけど、今日は少し違った。

アルがいない。
何処かに用事があるらしくて、今この個室には机を挟んでエドとフェリアの二人っきり。

気まずい雰囲気が流れている。
でもエドは本に集中すると周りに目がいかないから、そんな心配はしなくてもいい。

はまともに話した事がない。
話す気にもならない。
私を嫌いでいるならそれでいいと思った。

それでも私は一応、読みたくもない本を開いてはいるけど―――


「おいフェリア

突然声を掛けられたのは意外だった。
顔を上げるとエドは、本に目をやったままフェリアに威嚇のオーラを出していた。

「だいたい何で人体錬成なんかに興味があんだよ」

確かそういう事になっていた。
でも言い訳なんて考えてもいなかった。


全てがどうでもよかったから……


「えっと………その……」

そんなフェリアをじっと見るエド。
その目は相手を検分するようだった。

「人ってのは流れには逆らえない。逆らった所で待ってるのは代償だ」
「…………!」

突然、フェリアの顔が金縛りにあったように強張った。

「神に近づきすぎた罪のな……」
「…っ……!!」


『罪』……

『罪』……


あれは私の罪……
これが私の罪……


こんな所で生きていていい訳がない……!
死ぬべきなのは……私なのに……!


「……罪……私は罪……私は罪……私は………」
「お、おい……フェリア?」

フェリアの目の焦点があっていない事に気が付いた。

「生きてはいけない……生きてはいけない……生きたくない……生きたくない……!!」

「おい!」

エドがフェリアの肩を掴んだ。

「いや!触らないで!」

フェリアはバッと逃げ、その拍子に激しい音を立てて椅子から倒れた。

「私を見ないで……こんな私を見ないで……こんな私を……!」

うずくまって耳を押さえながら震えている。
翡翠の目は恐ろしく開かれていて、止めどなく涙が溢れていた。

フェリア!!」
「いやあぁぁ!!……ごめんなさい……!ごめんなさい……!!」
「……っ……くそ!」

エドはもう一度肩を掴んでフェリアの頬を思いっきり引っぱたいた。


バシン!


いい音が響いた。


「はぁっ……はぁっ……っ…!」

フェリアがこちらを見た。

「おいフェリア!しっかりしろ!」

そのままエドに抱きかかえられるようにフェリアは意識を失った。











「…………?」

目が覚めると見知らぬ天井があった。

「目、覚めたか」

つっけんどんな声の方を向くと、エドが本を閉じているのが見えた。

「……ここは?」
「宿だよ宿!お前覚えてねぇの?」

覚えているかと問われ、記憶を探ってみる。
あまり何を喋ったか思い出せないけど、最後にエドを見て気が遠くなったのは覚えている。

「……ここに運んでくれたの?」
「しょうがねぇだろ!いきなり倒れるんだから……!」
「そう……ありがとう」

エドは頭を掻きながらベットの隣の椅子に座った。

「…………」
「…………」

会話はない。

「……なあ、一つ聞いていいか?」
「……?」
「何で人体錬成にこだわる?」
「…………」


――私は罪………――

またあの症状がでたらしい。


だけどエドはさっきの事は聞かないでくれるようだ。

私は天井を向いた。

「別に……興味なんかない」
「………あ?」

言ってしまった。
大佐の苦労が水の泡になってしまうけど、私にはそんなに重要な事ではない。

「大佐がそういう事にしたから……私はそれに乗っただけ」
「は?!じゃあ研究者ってのは?!」
「大佐が勝手に言った事」

エドは気が抜けたように頭を垂れた。

「んだよソレ……あの無能野郎」


「で?結局お前は何なんだ?んな嘘ついてまで……」
「……私はただ、大佐に言われた通りにしてるだけ」
「あ~……質問を変える。お前は軍属か?」
「……軍属と言えば軍属」
「あ~もう!はっきりしろよ!お前の役職はなんだ!大佐と何かつるんでんのか?!」

エドの真剣な目が私を見据える。


これ以上は言いたくないのに……

でも、言ったところで何も変わらない、か……


「…………錬金術師だった」
「国家のか?」

ためらいながらも頷いた。

「『だった』ってのは……?」

私は目を反らした。

「……もう……錬金術など……使いたくないから」
「…………」
「大佐は……私を拾ってくれた。それで、旅をしてみろと」
「俺達とか……?」
「うん……」
「…………そうか」

エドはそれ以上何も聞かなかった。
それはエドの優しさなんだろうか、まだわからない。

「お前、年はいくつだ?」
「……15」
「あ?!俺と同い年じゃねぇかよ!15のくせして……」

15のくせして大人びてると思ったという事は、15は子供?
という事は、俺も……子供……?


(ぬおおおおおおっ!!!!)

エドは急に頭を抱えて悶絶しだした。

「?」

じきにエドは落ち着いたらしく、溜息をついた。
それをフェリアは半ば茫然と眺めていた。

「ったく、最初からそう言えばあそこまで邪険に扱わなかったのに……と思う」
「ごめん、なさい……」

フェリアは俯いて暗い顔をした。

「……あ~もう!そうゆーのナシ!もう立てんだろ?早くしねぇと夕飯が冷める」
「え……?私も行ってもいいの?」
「しょうがないだろ。嫌だっつったら大佐に何されるかわかったもんじゃねぇし……」
「……ありがとう、エド……さん」

照れくさそうに振り返った。

「エドでいい」
「ありがとう……エド」

フェリアが笑った。

今まで何をしても笑うなんて事なかったのに、今は昔みたいに笑えた。

嬉しいという感情、感謝という感情。
そんな久しぶりの感情が出てきたからかもしれない。


でもすぐに……私は笑ってはいけないんだと、心に誓った。






フェリアが笑った。

初めて見た、笑った顔。

あんな子供っぽい顔もするんだと思った。
それと同時に、綺麗だとも思った。


「ほ、ほら行くぞ!」

先にエドが出て行ってしまった。

慌ててベットから降りてドアを開ける。
右の階段の下ではエドが待っていた。

もう、置いて行かれる事はなかった。











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やっと何か始まりって感じですな。
これは展開早めですので、皆さん付いてきて下さいね(^_^;)