――あの人は本当に君の事を想ってる・・・・・?――
見つめられる度、どうしてか胸がざわつく。
――・・・・・・・ここにいて――
泣きたい時も、辛い時も、どうしようもなくなった時も。
いつも一緒にいた、いつも傍にいてくれた。
優しくて包み込んでくれるような人。
それは今も変わらないで私は彼の傍にいることを望んだ。
彼は私を悲しませるような事はしない、私を傷つけるような事はしない。
どんな時も、彼は私を守ってくれる。
楽しくて、嬉しくて、とても安心できる・・・・・
そんな温かい気持ちになれるのは、友達だから?親友だから・・・?
――・・・・・・・鳳綺・・・・・・一緒にいて・・・・・・・――
それは・・・・・彼が好きだったからなのかな・・・・・・?
譲れぬ想いと銀の天秤 6
掴まれた手がギュッと押し潰される。
力の他に何か見えない圧力で、私の全てを締め上げる。
雄飛の真剣な瞳が白銀を捕らえて離さない。
「鳳綺・・・・・・・ここにいればいい・・・・・」
囁くようなその言葉に、体の一つ一つが痙攣をおこす。
静寂の闇に引き込まれるように一瞬が永遠となる。
長い時間が過ぎた頃、鳳綺は横たわる雄飛にクスッと苦笑を漏らした。
「・・・・・・ごめんね・・・・帰るよ」
「・・・・・・・・どうして・・・」
今度は雄飛が驚く番だった。
「多分、待ってるから」
その微笑みは、過去に一度も見たことがないほど光に溢れていた。
「・・・・・・・・・・あの人が・・・・?」
それほどまでに『あの人』は鳳綺を縛り付けるのか・・・・・・
一瞬そう考えたのに、目の前の玲瓏な瞳ではそれを証明しない。
「うん・・・・・前にもね一回こういう事があったから。
私一人で遠出をした時に色々とゴタゴタが起こって帰れなくなってね、『遅くなる』って連絡したの」
鳳綺は楽しい思い出話といった感じで遠くを見つめながら喋り続ける。
どうやって連絡したのかとかは、この時には疑問に思わなかった。
「朝方近くになってやっと帰れたんだけど、そしたらね・・・・・尚隆、私の部屋で仕事してた」
『尚隆』・・・・・・・・そう名を呼んだ時の、彼女のなんて愛おしそうな響きだろうか。
「『こんな夜明けまで何してるの?』って聞いたら、『見てわからないか?仕事だ』だって。
私笑っちゃった、だって仕事なら自分の部屋でやればいいのに、いつまでも・・・・私の部屋で・・・・」
・・・・・・君は・・・・・・そんな風にして笑うんだね・・・・・
母親が子供を慈しむように、小さな子供を包み込む聖女のように。
守りたい、支えたい・・・・・・・そんな全ての感情を収縮した、愛に溢れた表情。
「尚隆・・・・・ずっと私の事待ってたの、寝ないでずっと・・・・・・」
君も菊さんもどうしてそんなにあの人の肩を持つ・・・・・・?
君に映るあの人はどんな顔をしているんだ?
・・・・・それとも俺が何か誤解しているのか・・・・・?
「・・・・・・・・ごめん・・・・・引き留めて」
わからない・・・・・・だけど俺には、君にそんな笑顔させられそうもない・・・・・・
雄飛は躊躇いがちにだったけど、ゆっくり手を離した。
その沈んだ面持ちに鳳綺は『ううん・・・・』と首を横に振った。
「ありがとう、心配してくれて」
「・・・・・・・いや、いいんだ・・・・・」
「そんな人だから・・・・・・・だから私ずっと雄飛の事が好きだったんだ」
「・・・・・え・・・・・・・・ええ!?」
にっこり笑顔の鳳綺とは反対に雄飛はあたふたと顔を真っ赤に染める。
「優しくて格好良くて・・・・・・自慢の親友だよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
「世界で一番大好きな友達だよ・・・・・・・あ、苫珠もだけどね」
天国から一気に地獄に突き落とされた気分だった。
「や・・・・・ち、ちょっと待って・・・・・!」
「大好きだよ・・・・・・雄飛・・・・」
「それは・・・・・・違・・・・っ!」
「ありがと、それじゃちゃんと寝てね・・・・・?」
「ま、待って・・・・・っ!!」
雄飛が必死に伸ばした手は鳳綺には届かず、空しい扉の音が返ってきた。
「・・・・・そ、それは・・・・・・『好き』って言わないよ・・・・・・・鳳綺・・・・・・」
雲海を渡り、禁門をくぐって琉綏を厩に預ける。
深夜の静けさが漂う中、灯りの麓にあの人はいた。
「ただいま」
尚隆は上質な官服を見事に着崩し、壁に寄りかかりながら酒をあおっている。
仕事をして言い訳を作るわけでもなく、ただ月を眺めていた。
「・・・・・・早かったな」
決して私の姿に驚く事はなく、淡々とそう告げた。
「ごめんね、もっと早く帰ってくるつもりだったんだけど向こうで夕食をご馳走になって・・・・・」
尚隆は『・・・そうか』とだけ呟いてまた興味なさそうに空を見上げた。
それが何だか嬉しくなって、鳳綺は尚隆に歩みを進めた。
随分長い間ここにいたのだろう、酒の瓶がいくつも床に転がっていた。
返ってくる言葉は予想がついたけど、どうしても聞いてみたくなった。
「何してるの?」
「・・・・・・別になにも。しいて言えば月見酒か」
こんな貴方がどうしようもなく愛おしい。
鳳綺は顔を綻ばせて、尚隆を抱きしめた。
「ありがとう・・・・・待っててくれたんだよね・・・・?」
首に絡めた腕にキュッと力を込めると、尚隆の手の中にあった杯の水面が波紋を描く。
その突然の行動に尚隆は何も返せなかったが、ふっと息を吐くとあさっての方向に呟いた。
「・・・・・・・・もう、帰ってこないと思っていた」
鳳綺の心も、鳳綺自身も・・・・・・・
「ふふ・・・・・・・ずっと傍にいるって言ったじゃない」
「・・・・・・言葉は所詮、曖昧なものだからな」
「私が今こうしてるのは・・・・・・曖昧なものじゃないでしょ?」
トクントクンと互いの鼓動が呼応する。
「ねぇ・・・・・聞いて?」
「なんだ」
「久しぶりに大学の時の友達に会って、嬉しくっていつも一緒に遊びに行ってた」
「・・・・・知ってる」
「それでねわかったの・・・・・・私、雄飛の事が好きだったんだって」
「・・・・・・・・・・・」
「ずっと友達だと思ってたから気付かなかったけど・・・・」
微笑みながら尚隆を抱きしめて鳳綺は続ける。
「雄飛は優しくて、私が泣いてるといつも慰めてくれて・・・・・・
一緒にいると楽しくて、安心できる・・・・」
「・・・・・・・・そうか」
月を眺めたまま尚隆は一言だけ呟く。
表情は一切変えていなかったけど、その口調が沈んでいる事は鳳綺にはわかっていた。
他の男の話をして、あの尚隆が穏やかでない。
不謹慎だけど嬉しくて、心が温かくなる。
「でもね、違う・・・・・・・違うの・・・・・」
貴方は違う・・・・・・
「私がこうしたいって思うのは、尚隆だけなんだよ・・・・・・?」
夜の闇の中、灯籠と月明かりで僅かに照らされる鳳綺と尚隆。
その影だけが禁門を彩り、2人の言葉だけが音のない空間を裂く。
「100年経っても500年経っても支えていたいって思うのは尚隆だけ・・・・・・ずっと、永遠に・・・・・」
全身で、言葉で伝えたい。
貴方だけが特別だって。
「雄飛や苫珠、朱衡様達もみんな好き・・・・・だけど尚隆は違うの・・・・」
他の人とは全然違う。
苦しくて、切なくて・・・・・でも涙が出るほど幸せなんだよ?
「尚隆にだけ・・・・・・私の全てをあげたい」
貴方にだけ言える、『愛してる』って。
「・・・・・・尚隆といる時が一番幸せ・・・・」
「・・・・・・・・そうか」
長い沈黙の後に尚隆が一言だけ応えた。
自分の本当の気持ちをほとんど言わない尚隆だけど、その言葉に全てが詰まっている。
「・・・・・ごめんね、心配かけて・・・・・・」
「いや・・・・・」
「これからは外出するの少し自重するね」
「・・・・・・・そうか」
ここにきてやっと尚隆が抱き返してくれた。
手に持っていた酒を飲み干し、そして柔らかく背中に腕が回される。
体を少し離して見上げると、尚隆の口元は上にあがっていた。
笑うとまではいかないけど、それでもどこか安心したような、穏やかな表情だった。
どこまでも、いつまでも見つめていたい黒曜石。
「・・・・・・お前が帰ってくるならそれでいい・・・・」
たとえあの男に少しでも惹かれていたとしても、その残りが俺にあるなら。
お前が俺に全てをくれると言うなら。
「・・・・・・それって、全部信用してないって事よね?」
ふいにむくれた顔をして見上げてくる鳳綺。
・・・・・痛い所を突いてくる。
「・・・・・・・そうだろ?ほんの一欠片でもお前はあの男が好きなのだろう?」
「・・・・だからそれは苫珠達と同じくらいって事だってば・・・・・」
「どうだかな。その中でもあの男が一番なんだろ?」
「・・・・・・・・・・・」
鳳綺は返答に困った。
確かにそうかもしれない、だけど雄飛と尚隆の間はすっごく大きく離れているのに。
尚隆が一番大好きなのに。
シュンと肩を落として目線だけで様子を窺うと尚隆はどことなく不機嫌だった。
他の人が見てもわからないかもしれないけど、眉が微かにつり上がっている。
どうしてだろう・・・・仮にも王なのに、立派な男の人なのに・・・・・・可愛いと思ってしまった。
「大丈夫だよ・・・・・・・尚隆がいる限り私はどこにもいけないんだから」
抱きしめてあげたくなる。
「・・・・・縛り付けてるか」
「違うってば~・・・・・」
それでもチクチクと皮肉を言われて苦笑する鳳綺。
・・・・・でもそういう尚隆も、しょうがないなって許せてしまう。
「もう・・・・・・尚隆っていい加減で、余裕たっぷりで、仕事サボってばかりで・・・・」
だけど強くて、賢くて、弱くて、脆くて。
「ガサツだし、女遊び盛んだし、六太は苛めるし・・・・・・」
恥ずかしいような言葉や遊び人のような行動は簡単にこなせるのに。
本当の気持ちは一切出さなくて。
心の中で悩んで・・・・・・苦しんでいる人。
「・・・・・だから私は貴方から離れられない」
私は女で尚隆は男なのに、私が貴方を守ってあげたくなる。
その不安定な心を支えたい。
そう、私が愛しているのは貴方だけ・・・・・・
「・・・・・・・よくわからない理由だ」
悪口ばかりのような言葉とは裏腹に抱きしめてくる腕や顔は優しくて。
黒真珠の海に散りばめられた星のように白銀が煌めく。
その瞳にほだされるように俺の中で何かが固まる。
頭にかかっていた靄のようなものが払拭され、代わりに覚悟と決意が埋め込まれる。
「・・・・・・・だが、それも悪くない」
鳳綺がそんな笑顔をするのなら・・・・・・・・・・・
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はい、一番大好きな「友達」オチでした(笑)
ヒロインはたぶん本当に雄飛君が好きです。
でもそれは「もし尚隆がいなかったら」の話だと思うのです。
尚隆がヒロインの傍にいる限り、ヒロインは他の男を本気で好きにはならない・・・・・
というかそんな考えにならないと思います。
・・・・・だって、相手は尚隆様だしね(苦笑)
他の男なんか目に入らないよ~~(雄飛はギリギリ入ったけど尚隆様の方が圧倒的)
まぁ・・・・・悪く言えばフタマタなんですけど(実際にはそんなに恋まで発展してないけど)
尚隆様も何だかんだ言って女遊びしてるのでおあいこです。
以前書いたように一線は越えてはいませんが、時々は複数の女と酒を飲んだりしてます。
で、ヒロインは表面上は怒ってはいますが容認しています。
1人の女に縛り付けては悪いとか思ってますから(詳しくは「君と共に~奏~」でっ!)
遊びで付き合う複数の女に対し、こっちはたった1人の本気の男。
色々と分が悪い気がしますが尚隆様にはこれくらいの刺激(?)があった方がいいかと・・・・
尚隆様もヒロインと同じような黙認?というか危機感?を持ってもいいかな、とこういう展開にしました。
・・・・・・・よく考えると凄い夫婦ですが(苦笑)
あとは雄飛君のエピソードを通して、
いかに自分が尚隆を好きか再確認してもらえたらよろしいです、ヒロインさん(え?)
・・・・・それにしても、尚隆様がどんどん私の好みに変形していってますけど・・・・・(汗)