殴りたいのなら殴ればいい。

罵りたいのなら罵ればいい。

俺は天罰を受けるだけの想いを持っているのだから。


それは何もされないよりかは遙かにマシなのだから。






譲れぬ想いと銀の天秤   4






「じゃあね雄飛~!」
「ああ、またね」

普通の日課となってしまったこの鳳綺を見送るという事。
鳳綺は今日も相棒の琉綏の上から楽しそうに手を振る。

「・・・・・鳳綺、仕事はいいのかな・・・・」

週に2回は遊びに来る頻度で、遂人はやっていけるのだろうか。
聞いても、大丈夫だとしか答えないからそれ以上問いつめる事はできないが。


・・・・・だけどその反面、鳳綺といられる事が嬉しいと思っている自分がいる。
鳳綺は純粋に自分に会いに来ている。


「やっぱり速いな吉量は・・・・」

豆粒くらいの大きさになった騎獣を見て、以前に鳳綺に騎獣を薦められた事を思い出した。
あの騎獣はここがいいとか悪いとか、無邪気な顔で熱弁していた。

何かに熱中している顔も、普段の姿とは違った魅力を感じるんだと実感した日だった。


・・・・・諦めるなんて・・・・無理な話だよな・・・


雄飛の口元が自然に緩んだ。
それに気がついて慌てて顔を引き締めて、いい加減帰ろうと雄飛はクルリと方向転換した。



「・・・・・っ!!!」




本当に心臓が止まるかと思った。




「よう、久しぶりだな」


黒い髪を肩で纏め、漆黒の瞳は楽しそうにこちらを見下ろしていた。

「・・・・・・な、なぜ・・・・あなたがここに・・・・・」

冷や汗が吹き出し、ろくに言葉も上手く発せなくなる。




目の前に立ちはだかるのは・・・・・彼女が最も愛してやまない人。














「・・・・・・・・・・・・・・・」
「どうした、食わないのか?」
「・・・・いえ・・・・・」

尚隆が連れてきたのはとある料理屋。
目の前には美味しそうな料理が並んでいるが、今は物が喉を通る気分ではなかった。

改めて『あの人』と対面すると他の人にはない威圧感を感じる。
おどけて笑ったりしているのに、漆黒の瞳は常に闇を佇ませている風情だった。

とりあえず雄飛は箸を持つが、その箸が動かない。


「・・・・・・・・あの・・・・どうして何も言わないんですか?」


自分を連れてきたという事は、鳳綺が自分と会っていた事を知っているのだろう。
今さっきだって、一緒にいた所を見られたのだから。

そう、相手にとっては大事な女に言い寄る男が目の前にいるという事。
自分だったら・・・・・怒りを抑えられない。


「何か言ってほしいのか?」
「・・・・・・・いえ・・・」


だけど『あの人』は何も聞かない。
さっきも、一緒に食事でもどうだ?と軽い口調で言われてこっちが拍子抜けしたくらいだ。
一人で黙々と食事を口に運んでいる。

・・・・・こっちは心臓バクバクだってのに・・・・


「・・・・・・・僕と鳳綺は、ただの友達です・・・・・何もありません」
「そうか」

とりあえず弁明してみるが顔色一つ変えず答える尚隆。
雄飛の心には次第に沸々と何かが湧き上がる。

自分だったら、もし自分だったら・・・・・・言い寄る男は許せない。
鳳綺が友達だと思っていようが、男の方には明らかに気持ちがある訳で。
そんな男が傍にいると考えるだけで安心できない。


それなのに・・・・・『あの人』は何も言わない。



全く会話がないまま時が過ぎていく。



一方尚隆は平然と食事をするフリをしながら、目の前の男を事細かに観察していた。



・・・・・・家はいたって普通だが、頭が良く大学も5年で修了。
今は貞州府の秋官で、性格は真面目で優しい、か・・・・・・

どこで調べてきたのか、雄飛に関する情報はもう既に頭に入っている。


・・・・・・完璧じゃないか。


尚隆からは思わず苦笑の溜息が漏れた。
見れば見るほど、雄飛という人物がいかにできた人間かうかがい知れる。
食事を口にする姿にもその性格のよさが現れてるような気になってくる。


鳳綺が惹かれるのもおかしくはない・・・・・・




「・・・・・・・ではな、金は払っておく」
「え?あの・・・・・!」

まだ小卓に料理が残っているうちに突然尚隆は立ち上がり、店の店員に支払いを始めた。
見事にその行動が理解できない雄飛はただ茫然とそのやり取りを眺めていた。

そして、雄飛を残して尚隆は文字通り何も言わず店から出ていった。


・・・・・『あの人』がわからない。

鳳綺と一緒にいるのを見られた時点で殴られる覚悟もしていたのに。
キッパリと言い切られた方が諦めもついたかもしれないのに。



「待ってください!」


雄飛が店から飛び出して大声を上げると、尚隆の背中は振り返らずその場で止まった。


「・・・・・・どうして何も言わないんですか?!」


殴ってくれた方がよかった。


「知ってるんでしょう!?ここ最近僕と鳳綺が一緒にいた事を!」


鳳綺と引き離してくれた方がよかった。


「『もう2度と近づくな』とか言わないんですか?!」

人の往来など全く無視して雄飛の声は通りに響いた。
尚隆はゆっくり振り向いて、冗談っぽく笑った。

「・・・・・・言ってほしいのか?」

反対に雄飛の目は真剣だった。

「・・・・・・・言われる覚悟はあります」


全く反らされる事なく、尚隆だけを見つめている。
互いの間には結構な距離があるのに、躊躇わず罰を与えてくれと訴える雄飛の目ははっきりと映る。

その奥に宿るのは、激しい鳳綺への想い。

罰を受けてでも、鳳綺を好きな気持ちは変わらない・・・・・・そういう事なのだろうか。



「・・・・・・お前と何をしようが、それはあいつの自由だからな」

少し間をおき、尚隆は淡々と答えた。
この後に及んでも口元を曲げておどける尚隆に、雄飛の顔がみるみる険しくなっていく。

「・・・・・鳳綺が僕になびく訳ないと・・・・そう思ってるんですか?」
「あいつがお前の所に行くのなら、俺は止めはしない」


この人は・・・・・・あの鳳綺を平気で手放す、そう言ってるのだろうか。


「貴方・・・・・前もそうだった・・・・・前もそんな顔で、平気で鳳綺を泣かせてた・・・・」


・・・・・・昔にもこの人は笑いながら鳳綺を泣かせていた。
それを置き去りにして、慰めるのは俺の役目だと飄々と言ってのけた。


「・・・・・貴方・・・・・鳳綺の事、本気で好きなんですか・・・?」
「・・・・・・・あんなイイ女、嫌いな訳がないだろう?」
「・・・・・っ・・!」


何でこんな男なのだ、鳳綺が愛している人というのは。

鳳綺がずっと泣いて、ずっと諦めきれなくて。
やっと想いが通じたという『あの人』というのは。


頭がどうにかなりそうな程・・・・・・・目の前の男が憎い。


鳳綺が幸せなら、僕は何も言いません・・・・・」


鳳綺の笑顔は汚したくないから。


「だけど僕は・・・・・貴方を認めない」


互いに向き合い、雄飛からは威嚇にも似たオーラで尚隆を睨み付ける。
そして逆に尚隆はどことなく冷たい視線でその怒りを見据えていた。


「貴方には誠意が感じられない」
「・・・・・・・そうか」
「・・・・っ!貴方本当に鳳綺が好きなんですか?!」
「・・・・・それはお前に言う事ではないだろう?」
「この後に及んでまだそんな事言う気ですか?!」

雄飛は思わず乱暴に足で地を蹴った。
今、相手と距離が近ければ間違いなく掴み掛かっていた所だ。


・・・・嫉妬はいくらでもある。
だけどそれ以上に、鳳綺に好かれているからと余裕ぶってる笑いが許せない。
鳳綺を大切にしていない言動が許せない。


「・・・・僕は鳳綺が好きです。ずっと・・・・・ずっと好きだった・・・・!」


こんな男に鳳綺は任せられない。


「あなたがそういう態度をとり続けるのなら・・・・・・僕は本気で奪いますよ」




激しい想いは・・・・・・純粋に鳳綺の為に。














「おかえり、早かったね」
「・・・・・・・ああ・・・」


正寝に戻ると、鳳綺は嬉しそうに駆け寄ってきた。


「どこ行ってたの?」
「まあ色々とな・・・・・」

「・・・・・・・?」

尚隆はじっと鳳綺を見下ろす。
鳳綺は訳がわからなくて首を傾げながらも取りあえず見つめ返した。




――「僕は本気で奪いますよ」――


臆する様子もなくあの男は俺に宣戦布告してきた。

あいつは俺の女だ。
そう言えばいいものを、そんな簡単な言葉すら吐き出す事ができなかった。

かろうじて口から出た台詞が、「・・・・・・やってみろ」だったとは自分でも笑ってしまう。


どうしてこうも、あの男のように自分の気持ちをさらけ出す事ができないのだろう。




「・・・・・・尚隆・・・・?」


・・・・・・鳳綺・・・・・・俺なんかより、あの男の方がいいのではないか?


真面目だし、何より誠実だ・・・・・・


俺なんかより、お前はずっと幸せになれるぞ・・・・?
こんな所で俺に縛られているより、お前は幸せでいられるぞ・・・・?

あいつは・・・・・・お前を心の底から愛してる・・・・・・


「・・・・・・どうしたの?」


だけど、その言葉は口にはできない。


あの男が本気になれば、鳳綺などすぐに向こうを好きになるだろう。
それだけの力をあの男は持っている。


・・・・・・鳳綺を無理に繋ぎ止める事もできないし、そんな自信など持ち合わせていない。


「・・・・・・どうもしない」

尚隆はふいっと鳳綺の白銀の瞳から顔を背けた。


怖がっている・・・・・・この俺が・・・・震えている。


鳳綺が離れていく、それを想像しただけでこの有様。




・・・・・・いつから俺は・・・・・こんなに弱くなったのだろうか。











Back Top Next



さあ、雄飛くんの本領発揮ですvv(嬉しそう)
尚隆様を思いっきり睨み付けてくれちゃってます。
だけど今回は尚隆と『貴方』と言ったり、自分の事は『僕』と言ったりと少し大人になってます(笑)

尚隆様、雄飛くんにもヒロインにも何も言えないでいます。
自分より雄飛の方が人間ができているから、雄飛といた方がヒロインは幸せになれるのではないか、とか。
それならば自分の想いだけでヒロインを縛りつけてはいけないだろう、とか考えてます。

・・・・・ひとえに、尚隆様ヒロインを愛しちゃってますねv(ポンと肩に手をおく)

まぁ、尚隆は基本的に自分の気持ちをさらけ出さない性格だと思ってますから。
逆にはっきり言う雄飛くんを羨ましいなんて思ってたりしてv(裏設定多すぎだって・・・)

次回からは、雄飛くん本領発揮です(笑)