「あ、あの・・・・・利広さん・・・・」
「何だい?」


利広は終始笑顔だった。
今初めてそれが恨めしいと思った。


「な、何で・・・・・・・禁門に・・・・・・・」

鳳綺と、たぶん琉綏も驚いている。
だって、目の前に見えるのは断崖に彫られた門だから。




「ここを通らないと私の家に着かないからね」







君と共に ~奏~2








奏で一番高い山、隆洽山。
その頂に位置するのは、鳳綺でも知っている清漢宮。






利広さんって・・・・・・・何者なんだろう・・・・?





・・・・と尋ねてもきっと利広は笑って答えないだろう。
聞きたい疑問を飲み込み、利広に連れられるまま鳳綺は禁門に降り立った。


「利広さん・・・・・貴方は一体・・・・・?」










「お帰りなさいませ、卓朗君」

官はそう言った。


「・・・・・・・・・・・え!?」

鳳綺は目を見開いた。

「た、卓朗君って・・・・・・・・!」



名前なら誰でも知っている。

延王よりも先に稀代の王と謳われている宗王。
その息子である宗太子の1人が、卓朗君という号だった。


「・・・・そ、奏の太子!?」
「放浪息子だけどね」
「なっ、な、な・・・・・!?」

鳳綺はまだ口をパクパクさせていた。

「何で黙ってたんですか!?」
「その方が面白そうだったからね。驚いた?」
「お、驚いた事は驚いたけど・・・・・うぅ・・・何か納得できる気もする・・・・・」
「はは・・・・・何それ」
「・・・・・只者じゃないとは思ってたけど・・・」

利広は顔を綻ばせた。
白銀の瞳が止めどなく瞬いているのが楽しい。

「あ、やっぱりかしこまらないと・・・・・いけないですか?」
「そのままでいいよ。私はそんな事望んでないからね」
「でも・・・・・・・・あれ?前にもこんな事言われた気がする・・・・」
「へぇ・・・・・」
「・・・・・・・・・・そうだ、尚隆に言われたんだ・・・・」



尚隆が王だってわかって・・・・・それで平伏しようとした時に言われたんだっけ・・・・・

確かに・・・・・・今まで仲良かった人に身分明かしたら、急に態度が変わってしまったなんて・・・・・嫌だね。
ごめんね、尚隆・・・・・・・




考え込み出した鳳綺をずっと微笑みながら観察する利広。
そして、すっと顔を上げた表情は、とても柔らかかった。

「じゃあ・・・・・・・これからも『利広さん』ですね!」


利広は少し目を見開いた。
その笑顔が、あまりにも輝いていたから。



・・・・・・確かに、風漢が気に入るはずだね。







「卓朗君・・・・そちらの女性は・・・・?」
「あぁ、私の客人だよ」

官の観察の目が鳳綺に向かった。

「あの・・・利広さん!」
「なんだい?」
「やっぱり・・・・・な、中・・・・入るんですか?」
「そうだよ?」
「え!?で、でも私・・・・・お邪魔しちゃ悪いので・・・!」


鳳綺は慌てて手を振ったので利広は優しい笑顔を向けた。


「大丈夫だよ、鳳綺
「でも・・・・・・・・あ!」
「何?」
「太子の家族って事は・・・・・・・・・・・」

恐る恐る見上げると利広はにっこり微笑んだ。

「王も王后も入るね」
「!!やっぱり帰ります~~!!」


クルリと方向を変えようとするが、腕を掴まれて不可能になった。


「・・・・・行こうか?(にっこり)」

顔は笑っているのに目は笑っていない。
黒いオーラが利広の背後に現れた。

「・・・・・・・・」


鳳綺は心の中で泣いた。

尚隆が来たがらなかった理由が何となくわかったよ・・・・・

























清漢宮。

玄英宮と外観は似てるけど、どこか違う。
そして、利広は真っ先に後宮に進む。



そして、豪華な扉が開け放たれる。



「兄さまが珍しく正面から帰ってきた!!」

出迎えたのは鳳綺よりも年下くらいの女だった。



ん?・・・・『兄さま』って事は・・・・・・・この子も・・・・公主!?



「お帰りなさいませ」
「ただいま、昭彰」

次に姿を現したのは金髪の美女だった。



え!?金髪って事は・・・・・・・・宗麟!?



次々と現れる貴人に鳳綺はただ利広の背中に隠れるしかなかった。



「・・・・・あら?そちらの方は?」
「兄さまが女連れてきたーー!!」
「うるさいよ文姫・・・・・・こちらの女性は、延后妃だよ」
「「え!?」」


バッと利広を見たのは文姫と鳳綺
くすくすと利広は笑っている。


「利広さん!知ってたんですか・・・・!?」
「まぁね」
「な、何で言ってくれなかったんですか・・・!?」
「面白そうだったから」
「・・・・・・・・・・・・・」


利広はやっぱり何を考えているのかわからない。

鳳綺は少し怒りの混じった目をプイッとそっぽを向かせた。



そう、その顔が見たかったんだよ、と利広は呟くが鳳綺には聞こえない。





「へぇ~・・・・・あなたが延后妃ですかぁ!」
「あ・・・・・一応そうです」
「一回会ってみたかったのよね~!何せ『幻の延后妃』だから!」
「ま・・・・幻の・・・・?」

鳳綺はきょとんと文姫を見た。

「表には決して顔を見せない事で有名だからね。だから『幻』」

利広が付け足した。

「まあまあ、公主。こんな所で何ですから、中へお招きしては・・・?」
「あ、そうだった!じゃあ延后妃、遠慮なさらず中へどうぞ」
「あ、はい・・・・・・」


鳳綺は頭の中をグルグルさせながら奥へと入っていった。










「へぇ・・・・・宗台輔も宗王もみんな典章殿に住んでるんですか~・・・・・」
「えぇ、やっぱり家族は同じ部屋で生活しないと、って父が」
「仲が良いんですねぇ・・・・・!」

広めの円卓で、お茶をすする鳳綺と文姫。
ここが家族の集まる空間なのかもしれない。

机を挟んで文姫はキラキラした顔で鳳綺を眺める。
文姫はどう見ても鳳綺より年下に見えたが、奏は雁よりも100年栄えている。
・・・・という事は、この可愛らしい少女は実際は200歳以上・・・・・


利広は移り変わる鳳綺の表情を見て取ってクスクス笑った。

「ふふ・・・・文姫が200歳以上のご老人に見えなくて混乱してるよ?」
「な!なら兄さまだって200歳以上じゃないの!」
「私は文姫みたいに子供の格好じゃないから」
「しょうがないでしょ~!?」


「おやめなさい文姫」



顔を上げると、ふっくらとした女性が部屋に入ってきた。
文姫は顔を膨らませながらそっぽを向いた。


「お初にお目に掛かります、延后妃。私は明嬉、この子達の母です」

華美な格好でもなく、『お母さん』という印象だった。

「そして、この国の王后でもあります」

にっこりとその女性は笑った。
堂々として、強い瞳を宿していて、同じ王后として差を感じた。

「は、初めまして宗后妃!私は―――」
「延后妃ですね。昭彰から話は伺いました」
「すみません・・・・勝手にお邪魔してしまって・・・」
「いいんですよ、利広が勝手に連れてきたんですから。それに・・・・・」
「・・・・・?」
「・・・・・私も貴方に会ってみたかったですから」

優しい笑顔だった。
明嬉を見てると、自分の母を思い出す。
全てを包んでくれるような雰囲気が明嬉にはあった。

この世界では親子の顔は似ていないのに、どことなく利広の笑顔は母譲りだと思った。



「それより利広!貴方どこほっつき歩いてたの!」
「雁を少々」
「そんな事はわかってます!連絡ぐらいしなさい・・・・」
「はいはい」


いつも笑顔で何考えてるかわからない利広も、母の前では子供なんだ・・・・・

ふと、ここが清漢宮の中だという事を忘れる。
小さな、田舎の家庭を思わせる。

穏やかで、温かい『家庭』を。




自然と鳳綺は顔を綻ばせた。


「わぁ・・・・・・!」
「・・・・・?」

文姫の声にはっと我に返る。

「延后妃って笑っても凄く美人ですね!延王も隅に置けないみたい・・・・!」
「え、そんな・・・・・!」
「照れる顔も綺麗~!兄さま、いくら延后妃が綺麗でも手を出しちゃいけないよ!」
「・・・・・あのね・・・・・・私を何だと思ってるの・・・・」
「不良息子」
「・・・・・・若作りババア」
「なんですってぇ~!?」
「やめなさい文姫、利広!」

明嬉の喝が飛んだ。

「・・・・・・すみません延后妃。お見苦しい所を・・・・・」
「い、いいえ!気になさらず!」
「でも・・・・・確かに貴方には何か惹かれるものがありますね」
「え・・・・・?」

明嬉は円卓の鳳綺の前に腰を降ろした。
すっと顔を上げた明嬉は、王后の顔をしていた。
200年以上も王后として国を支えてきた表情に、鳳綺は目を奪われる。

「だから延王も貴方を選んだのでしょう」
「・・・・・・私はそんな・・・・・」
「・・・・・・王后として胸を張れる自信がない、と?」
「・・・・・・・・・・・・すみません」

自信がある、と言えば嘘になる。

自覚がないと怒られるかもしれない、と恐る恐る顔を上げるが、明嬉は笑っていた。


「それでいいんですよ」
「え?」
「私も・・・・・いきなり王后とされて、本当に悩みました」


お茶の湯気が温かく登った。


「王后なんて出来る訳ない・・・・私は平凡な人間なのに、と・・・・・・」
「あ、私も同じです・・・・!とても・・・・悩みました・・・・」
「・・・・・私は・・・・・今は『王后』というものにこだわっていません」

明嬉は隣の文姫と利広、昭彰を見渡した。

「この国は、王は1人ではないんです」
「え?どういう・・・・・」
「主上と私、3人の子供達、そして宗麟・・・・・・みんなで『宗王』なんです。
だから今は、『王后』として肩に力を入れてはいません」

明嬉は鳳綺に笑いかけた。

「延后妃も・・・・そんなに力を入れず、王を・・・・夫を支えていけばいいんですよ」


明嬉の言葉が一つ一つ心に染みる。

私よりも200年以上王后として生きている宗后妃。
憧れる存在であり、どこか親近感が湧く存在。


そして、『母』を感じた。




「・・・・・・ありがとうございます、宗后妃」
「頑張ってね」
「・・・・はい!・・・・あ、あの・・・・!」
「はい?」

鳳綺は一度俯き、躊躇いながら明嬉を見上げた。


「・・・・その・・・・・・また・・・来てもいいですか?」


また・・・・・憧れの、でも包み込んでくれる他国の王后に・・・・・・また会いたい。



明嬉は微笑んだ。



「・・・・・いつでも来て下さい。私も待ってますから・・・・」
「あ・・・はい!」
「その時には貴方の事を『鳳綺』と呼べたらいいわね・・・・」
「え・・・・・・・う、嬉しいです!いくらでも呼んで下さい!」
「貴方も、私の事は『明嬉』でいいですので」
「え!?そ、そんな!宗后妃を名前で呼ぶなんて・・・・・・!」

慌てて手を振ると、明嬉はどこか悲しそうな目をした。


不躾な台詞を言ってしまったと後悔した。



「えっと・・・・・・いいんですか?」
「そうしてくれたら嬉しいです」


明嬉はすっと手を差し出した。
鳳綺は一瞬躊躇うが、顔を微笑みに戻して握り返した。


「それじゃあ・・・・・・また来ますね、明嬉さん!」
「えぇ、いつでも待ってますよ、鳳綺・・・・・」



人生の『先輩』ができた。

優しくて、憧れる。
でもどこか『お母さん』のような人で。


・・・・・・いつか、時を越えた『友達』になれるかもしれない。











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うわーー・・・・利広より明嬉さんが出張ってます(笑)
しかもニセ利広が出回ってます!ご注意を!!(苦笑)
尚隆が出てこねぇ!!(汗)

実は、利広より明嬉と話をするのが、今回の旅行のメインテーマでっす。
何となく明嬉さんとは友達になっておきたかったので。
利広メインの話は、またそのうち書きたいです★


・・・・・いちおう、まだ続きます。
次回は尚隆出ますよ・・・・・多分(笑)