露台から眺める景色は、何処であってもあまり変わらない。

だけど、何故か心が寂しい。


それは多分、貴方がいないからなのでしょう・・・・







君と共に ~奏~3








「へぇ・・・・・やっぱり似たようなものなんだ・・・・」


清漢宮で客室として案内された部屋から露台に出た。

いつも、鳳綺が後宮で目にしている景色とほぼ同じ光景がそこにはあった。
彩る花、煌めく水面、崖のようにそびえる山、そして雲海。
多少の差異はあるものの、それほど違いもない。

違いがあるとすれば・・・・・・




「・・・・・・尚隆・・・・・何してるんだろう・・・」



ふと、昼間の尚隆の背中が脳裏に蘇る。
『王』として清漢宮に昇るのが嫌だったのはわかるが、さっさと行ってしまった事は理解できない。


それに、『尚隆と』旅行に来たんだ。
いくら良い知り合いができて、良い部屋に案内されても・・・・・・この場に尚隆がいない。




・・・・・・・・つまんないよ。




鳳綺は独りで俯いて口を尖らせた。







「・・・・・・・眠れないのかい?」


振り向くと、部屋へと入る扉に手を掛けた利広がいた。


「あ・・・・いや・・・・・その・・・・・・」

こんな上等なもてなしに、どんな文句が言えるだろう。


利広は口ごもる鳳綺の真意を汲み取った。


「風漢が心配なんでしょ?」
「・・・・・・・・・はい」


今頃になって、あの背中の行方が浮かぶ。

何となく・・・・・・置いてかれた気がして、心配になった。


「あの・・・・・利広さん!」
「何だい?」
「その・・・・・・こんないい所に止めて貰ってて何なんですけど・・・・・下、降りていいですか・・・?」

下、つまり首都・隆洽。
尚隆と最後に別れた場所である。


真剣な眼差しの鳳綺を見て、利広は思わず吹き出した。

「それは構わないけど・・・・・風漢が何処にいるのかわかるのかい?」
「・・・・・・・それは・・・・」
「ましてやここは奏。慣れてない地を1人で歩くのは少々危険だと思わない?」
「・・・・・・・・・・」

聞き返されて鳳綺は何も答えられなくなった。


しかしすぐに利広は真剣な眼差しを一転して笑顔に変えた。


「・・・・・・・じゃあ、風漢の所に案内してあげるよ」
「え?知ってるんですか!?」
「まぁ・・・・・風漢の行きそうな所ぐらい想像できるからね」
「・・・・・・?」

利広の呟きを鳳綺は聞き取れなかった。

その後、明嬉達に簡単な挨拶を済ませ、とりあえず利広に付いて隆洽の街へ降りた。
























「え~と・・・・・・・・利広さん・・・・」

「何だい?」


ギギギと錆びた機械のように利広を振り返った。


「・・・・・・・何で尚隆の居場所を知ってるんでしたっけ?」


利広は初めて冷や汗を浮かべた。

それは・・・・・鳳綺から嫌なオーラが出ていたから。


「・・・・・・・『風漢の行きそうな所ぐらい想像できる』と・・・」
「それはつまり?」


利広は目の前の建物を仰ぎ見た。



「・・・・・・・・・女を呼べる宿」











・・・・・・・・うふふ・・・・・・・やるじゃない尚隆も。

『私』がいるってのにさv

私をさっさと置いていったんだから、何か事情があるのかもしれないと思ってたのに。
心配の『し』の字もいらないじゃない。
雁でも尚隆がたまに何処かへ出かける事は知ってたわよ。
さすがに女には手を出さないと思ってたけど・・・・・・?


・・・・・・・これは何なのよ。






隆洽で恐らく一・二位を争う程の豪華な宿。
こういう宿で一番良い部屋を取るような客には、当然女がつく。
そのまま夜を共に・・・・・なんてのは結構多いらしい。



・・・・・・・・・鳳綺は宿の門をくぐってからも終始笑顔だった。
ここの者であろう、艶めかしい女達が通り過ぎるたびにその笑顔は極上へと変わっていく。

・・・・・・ただし、目は笑っていないが。





「あら、利広様。ようこそいらっしゃいました」

宿の女将らしい人が利広に話し掛けた。

「今日は客で来たんじゃないんだ。・・・・・・・風漢という男、来てるかい?」
「すみません・・・・・利広様でもお客様の事を話す訳には・・・・・」
「まぁ・・・・・そうだろうね。・・・・・鳳綺―――!?」

利広は本気でその場から逃げたかった。

まさかあの鳳綺がここまで黒いオーラを出すとは思わなかったから。
ニコニコニコニコしながら、鳳綺の右手が微妙にゴキゴキ鳴っている。



・・・・・・・ちょっと・・・・・怖いかもしれない。



「なあに、利広さん?」
「・・・・・・『たま』がいたから此処に風漢がいる事は間違いないと思う・・・・よ?」
「へぇ~そうでしょうねぇ・・・・こぉ~んなに綺麗な女の人達がいるんですからv(にっこり★)


・・・・・・・笑顔で負けた。



利広は敗北感に襲われた。
そして、鳳綺をこんなにさせる張本人を少し、いや・・・・もの凄く呪った。



・・・・・そこで、利広はある考えを思い付いて、鳳綺の肩に手を置いた。


「・・・・・・女将さん、この女性を一番上等な客に付かせてくれないかな?」
「「え!?」」

女将と鳳綺が同時に利広の顔を見た。

「こ、この子ですか?そりゃ~・・・・・結構な娘さんですけど・・・・・」
「彼女はその『上等な客』への手土産なんだ。彼女の事を凄く気に入っててね」

・・・・・『一番上等な客』は尚隆で決まりらしい。

「でも・・・・・一応素人ですよね?」
「大丈夫、私が保証するから」
「・・・・・そうですか?お客さんが喜ぶならねぇ・・・・」

「ちょ、ちょ、ちょっと利広さん!」

正気になった鳳綺が利広に詰め寄った。

「な、何て事言うんですか!私そんなのやった事ありませんよ!」
「別に風漢相手なんだから気後れしなくてもいいだろう?」
「でも・・・・・!」
「なら、このまま知らない女性と夜を共にされて黙っていられる?」
「うっ・・・・・」

ん?と、利広は笑顔で首を傾けた。
微かに黒いものが背後にうごめいた。


「・・・・・・・・・・・・・・なら・・・・・お願いします・・」


「そうそう、いい子だね」
「・・・・・・・・・・」
「じゃあ女将さん、お願い」
「仕方がないですね・・・・・・今回だけですよ?」
「ありがとう」

歯が光りそうな微笑みで、女将やその場にいた女達は頬を染めた。
・・・・・鳳綺は自分の事に精一杯で気づかなかった。











「・・・・・・・どうですか?」


鳳綺は利広に着飾った姿を見せた。
さっきとはうって変わった優美な雰囲気に利広は圧倒されそうになった。


「・・・・・いいね。よく似合ってるよ」
「何か・・・・・・チャラチャラしてる」
「それが普通だよ?」

玄英宮で着る、『王后』としての装飾とはまたひと味違っていた。
・・・・・・どちらかというと、色っぽさを全面に出したような化粧や服飾。
さらには香も付けられ、自分で自分の匂いに酔いそうだった。

「着飾ると雰囲気がガラリと変わりますねぇ・・・・・・このままウチで働いてもらおうかしら?」
「え!?」

女将が冗談とも取れない笑いを零した。

「すまないね、彼女はこれでも忙しいからね。一つの所に留まってられないんだ」
「そうなんですか、残念ですね・・・・・絶対人気になると思うんですけどね」
「あはは、また今度違う子を紹介するよ」

鳳綺はひとまず胸を撫で下ろした。

どこから女の子を紹介するのか・・・・その辺の疑問は聞かなかった事にした。


























「さぁさ風漢様、もっとお飲みになって?」
「あぁ・・・・・」

尚隆は隣の女から何杯目ともわからない酒を注いでもらった。



奏の宿も悪くない。
それに、中々いい女もいるようだし。

・・・・・・・あいつは上にいるしな。



などと考えながら薄ら笑いを浮かべ、酒を口に運んだ。


「・・・・・・どうですか?」
「あぁ・・・・うまい」

隣にそう言葉を掛けてやると女は鈴が鳴るように微笑んだ。
その容姿は申し分なく、十分色っぽい。


尚隆は満足げに笑った。





「・・・・・・・失礼します」


女将の声がノックの後に聞こえてきた。
普通ならば、一度人払いをした後はあまり人の出入りなどない。

「・・・・・・・入れ」

尚隆は怪訝そうに乱れかかった衣服を軽く元に戻した。

「度々申し訳ありません。先程いらしたお客様より・・・・・『献上品』を届けに参りました」
「・・・・・献上品?」

女将は渋々この台詞を述べた。
利広に強要されたので仕方なく伝えた事だが、当の尚隆は知るよしもない。

「とは申しましたが、お客様が連れてきた娘を届けにきただけです」
「・・・・・・・だが、女ならもういる」
「はい。ですから、お気に召されたらでいいので・・・・・」

女将は深々と頭を下げた。


頭上から溜息が聞こえた。

「その、娘をよこしたのは誰だ?」
「・・・・・・・・『娘を見ればわかる』と、仰ってました」
「・・・・・・・・。わかった、呼んでくれ」


誰の陰謀か知らないが、このまま拒否し続ければ女将が困るだろうから仕方なく許可した。
それと、いい女なら見て損はない、と尚隆は思っていた。



「では・・・・・・」

そう言った後、女将と入れ替わりに女が入ってきた。

俯いているので顔はわからないが、豪華な櫛が挿された艶やかな黒髪が印象的だった。
しばらく扉の近くで躊躇っていたが、次に白い顔が晴れやかに微笑んだ。


「・・・・・・・ごきげんよう、風漢様vv」

「!!!!」


これがマンガだったら絶対酒を吹き出してたと思う。


「お気に召されたのであれば、是非私にも風漢様にお酌をさせて下さると嬉しいですわvvv」

にっこりと満面の笑みが尚隆を照らした。
しかし、目は全く笑っておらず青筋が浮かび、背後にはどす黒いオーラが溢れかえっていた。


「・・・・・・っ・・・・・・・利広か・・・!」

尚隆は言葉を失い、ようやく憎い名前しか口にする事ができなかった。

この場に鳳綺がいる驚きと、女遊びがバレた焦りと、鳳綺の余りにも冷たい笑顔が、尚隆に冷や汗を浮かばせる。

「・・・・・・・風漢様?」

何も知らないのは、隣に寄り添う女。


「・・・・・・・・すまない・・・・・・外してくれ」

女はその言葉に一瞬むっとするが、仕事として割り切っているからか、すんなりと立ち上がった。
そして鳳綺をすれ違う時に見遣り、その美しさに悔しさを感じながら部屋を後にした。




「・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・」




沈黙。





「・・・・・・・へぇ~・・・・綺麗な女の人ですねぇ~。いつもあんな綺麗な人達と一緒にいたんですかぁ~★」

先に口を開いたのは鳳綺だった。

「・・・・・・・・・・・・鳳綺

「知らなかったなぁ~vvv素敵なお知り合いがたくさんできてよかったですねぇ~vvv」
「・・・・・・・・・・」


チクチク刺さる嫌味に尚隆は思わず俯いた。


「・・・・・・・で?どういう事か説明して頂けますか風漢様?」
「・・・・・・・・・これはだな」
「『これは』・・・・・何でしょうか?何から何までわかるように仰って下さいますか?」
「・・・・・・・・・・」


またしても鳳綺に勝てそうにない。



・・・・・・・キレると朱衡化するとは思わなかった。



チラリと鳳綺を盗み見るが、真っ黒な微笑みで失敗に終わった。
初めて・・・・・本気でキレた鳳綺を恐ろしいと思った。

敬語が余計に内に秘めたオーラを引きだす、この押し潰されそうな空気に尚隆は頭を掻いた。





「・・・・・・・・・あ~・・・・・・・やましい事はしていない」

確かに、結婚してからも女遊びは幾らかあったが、鳳綺以外の女と一線を越えた事はなかった。
嘘は言っていない。






「・・・・・・・・・・・もういいよ、尚隆」
「・・・・・・鳳綺?」


鳳綺の表情は急に穏やかになった。
さっきまでの禍々しい気配が嘘のように消えた。



「・・・・・・・・・・いいの、大丈夫だから・・・・」




今までだって尚隆に言い寄ってきた女はいくらでもいた。
言ってしまえば、浮気は男の甲斐性な訳で、それはその分尚隆に魅力があるからで・・・・
・・・・・・私1人では、多分尚隆は物足りないんだと思う。
縛られたく無いんだと思う。

・・・・・『私だけを見て』なんて言葉はいくらでも言える。
だけど・・・・・・それは尚隆の前ではただの我が儘に聞こえるんだ。

だから私は、全て信じて受け入れるしかないんだ。
・・・・・・・・信じるしかないんだよね。

それが妻の役目なんだろうな・・・・・・



鳳綺は、尚隆に笑いかけた。
怒ってゴメンって、縛り付けてゴメンっていう意味で。





「・・・・・ゴメンね?」
「!!・・・・・鳳綺!」

鳳綺が部屋から出ようと背を向けると、突然背後から抱き寄せられた。

「怒れ!頼むから怒れよ・・・・」
「尚隆・・・・・・?」
「お前は俺の妻だ。他の女といた俺に叱責する権利がある。だから・・・・・・怒れ!」

強く抱きしめられ、尚隆の香がした。

「認めようとするな。俺を許すな。」
「尚隆・・・・・苦し・・・!」
「悪かった・・・・・俺が悪かったから・・・・・!」


激しく自分を後悔した。

鳳綺はこの場面を見て怒るだろう、そして俺はただ謝ればいいと思った。
そうすればまたいつも通り、無邪気な顔に戻ると思っていた。
鳳綺を妻にしてからは控えていたが、あいつは俺が遊んでいる事を知っている。
だから・・・・・それだけで済むと思っていた。


・・・・・だが、あいつは怒りもしなかった。

冷めた笑顔は向けられたが、次に待っていたのは悲しそうに笑った顔だった。
他の女に手を出す俺を認める、と言ったのだ。

・・・・・後悔した。



「『自分1人だけを見て』となじられた方が・・・・・よほど気が楽だ・・・・・!」



『本当は他の女なんか見て欲しくない』と言いたいだろう。
なのに、全て受け入れようと・・・・・・・あいつは笑った。
俺の女だと、自身を持っていいのに。

・・・・・・俺はそこまであいつを追い込ませてしまった。


「・・・・・・・すまない」
「尚隆・・・・大丈夫だから」
「・・・・・それじゃ俺の気が済まない」

鳳綺の手を引き、寝台に腰をかけている尚隆の上に跨らせた。

そして何度も鳳綺の唇を自身の唇で塞いだ。

「・・・・・んはぁ・・・・っ・・・・尚隆・・・!」

乏しくなった酸素を必死で吸い込むように鳳綺は口を開けた。
その隙間に、今度は熱い舌が滑り込まされた。

「んんっ・・・・!」

がっちりと強く抱きしめられ、鳳綺は苦しさを覚えた。

うっすらと目を開けると、尚隆は辛そうな顔をしていた。
謝罪を唇から直接感じた。



「・・・・・・・悪かった」
「あはは、もういいってば~」

困ったように笑って、尚隆の首に抱き付いた。


鳳綺としては、『女遊びも、尚隆にしてみれば甲斐性なのかなぁ?』ぐらいに思っていた。
今までの尚隆の性格からして、それが当たり前なんだと。
どちらかと言うと、ここまで必死で謝る尚隆を少し変だとまで感じたぐらい。

だけど今の事で、尚隆の中の特別な女だと認識できたから、鳳綺は素直に嬉しかった。


「・・・・・・お前は、俺の妻だ」
「うん」
「俺が一番大事にしたいのはお前だ」
「うん・・・・」
「俺にとっては、『女』は鳳綺だけだ」
「・・・・・・わかったってば」
「だから・・・・・・悪かった」


尚隆は再び唇を塞いだ。


「・・・・・・・怒れ」
「うん・・・・・今度やったらね」

鳳綺は柔らかく笑った。

また、許されてしまった。


「・・・・・・・そうか。では・・・今度は怒ってくれ」



尚隆は、この全く敵わない『女』を一生守っていこうと、この時誓った。





「でも・・・・・・・」


しばらくの沈黙の後、鳳綺が口を開いた。



「・・・・・・・・今度やったら、ただじゃ済まさないからね、尚隆vvvv」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」




やっぱり敵わないと思った。


怒って欲しいと言った。




・・・・・・・・だが、もうこの黒い笑顔は二度と見たくない。







鳳綺・・・・・・・・お前が最強かもしれんな。











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まだ続いちゃったり・・・・・。

一部分シリアスになってしまいました(汗)
これは全面ギャグだったはずなのにぃ~!

結果的にこの話、何が言いたいのかよくわかりません(爆)
ただ、黒い最強ヒロインが書きたかったんです!
それだけの為に尚隆がヘタレにっ!!(笑)

次回はですね、「裏」を書きます。
この続きという形ですが、「裏」を読まなくても話は繋がってますので、
苦手な方、安心してお待ち下さい(?)

せっかく妓楼まがいの宿にいるんだから~・・・ね?(同意を求めるな)