鳳綺、準備はできたか?」


尚隆は既に官服を脱ぎ、髪も肩のあたりで纏めていた。
琉綏も「早く行こう」と足を蹴って私を急かす。


「ん~ちょっと待って・・・・・・・はい、できた!」

鳳綺は見せびらかすように尚隆の前でくるっと回った。
その姿は、動きやすい女武人の格好だった。
腰に差された細剣と鳳綺の無邪気な笑顔とが不調和な印象を与える。


「なら行くか。朱衡達に見つからないうちにな」
「う~・・・・ごめんなさい朱衡様・・・・苫珠・・・・・」

鳳綺は手を合わせてブツブツ唱えていた。



「行くぞ」

「うん・・・・!」



たまと琉綏が高く飛翔する。







君と共に ~奏~1








「ん~・・・・・良い天気・・・」


鳳綺が栄えた街の大通りで高く伸びをすると、尚隆が後ろから溜息を漏らした。

「あ、今笑ったでしょう?」

拗ねながら振り返る鳳綺に、よけいに顔が綻ぶ。

「・・・・・・お前は変わらないなと思ってな」
「いつまでもお子様ですみませんね」
「そこまで言ってないだろう」
「はいはいそうですか、それはすみませんでした」

鳳綺はスタスタと街並みを歩いた。

黒くしなやかに髪が揺れる。



・・・・・・本当に、変わらないなと思う。

こんな風に関弓を歩いたあの頃と。



「・・・・・・・・ま、変わられても嫌だが・・・」






「尚隆ーー!置いてくよー!?」


鳳綺が俺を呼ぶ。



「・・・・・・・はいはい」



心が温かい。














「・・・・・あれ?」



前方の宿から出てきた男と目があった。


尚隆は平静を装うが、明らさまに嫌そうな顔をした。


「・・・・・・・・利広」
「奇遇だね、こんな所で会うなんて」
「・・・・・・・・・・」

柔らかい黒髪を肩のあたりでまとめ、白い歯を光らせる勢いで笑う利広。



「尚隆~?・・・・・え・・・・・利広さん!?」

鳳綺が一目散に駆け寄ってきた。

「ああ・・・・・・久しぶりだね、鳳綺
「利広さんこそどうしたんですか?こんな所で・・・・」
「私はこうやってウロウロするのが好きだからね」
「でも、本当に・・・・・久しぶりですね・・・」

鳳綺は1人感慨にふけっていた。

利広とは一度、芳陵で出会っていた。
あの頃と何も変わらず、終始笑顔を絶やさない、優しい口調だった。
・・・・・・・・という事は、利広も神仙なのかもしれない。


「・・・・・この様子だと、『ある人』とはうまくいったみたいだね」
「えっ・・・・・?」

もう数年前の話を掘り返されて、少し恥ずかしい。
チラリと尚隆を覗き見ると、何故か尚隆もばつが悪そうにしていた。



「初めてだね、3人で顔を合わせるのは」
「えぇ、まぁ・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・っていうかお前は利広の事知っているのか?」
「え?うん、前に芳陵で会った事があるから・・・・」
「・・・・・・・・・」

無口な尚隆を余所に、利広だけがクスクスと面白そうに笑った。


「それで、鳳綺達は何をしてるんだい?」
「えっと、色んな所を点々と旅をしているというか・・・・・そんな感じです」
「へぇ・・・・それじゃあ奏へは行ったかい?」
「奏はまだ・・・・・・・」
「なら、奏へ行ってみるといいよ。雁より100年も長くもってるからね、街一つが大きいよ?」
「へ~・・・・・いいなぁ、行ってみたいなぁ・・・・」

鳳綺は白銀の瞳を輝かせた。

「もしこれから行くと言うなら、私が案内してあげるよ」
「えっ、そんな悪いですよ・・・・・」
「前に関弓まで案内してもらったからね、そのお礼として。それに奏は私の出身地だから」
「え!利広さんって奏の生まれだったんですか!?」
「はは、一応ね」


「・・・・・・・・・・勝手に話を進めるな」

尚隆が不機嫌な顔で突っ込んだ。

「・・・・・風漢もどうだい?」
「・・・・・・・・・・・」
「いいなぁ・・・・・奏に行きたいなぁ・・・」

鳳綺は尚隆の腕を掴んだ。

「ねぇ、奏に行こうよ!面白そうでしょ?」
「・・・・・・・・・・」

尚隆は利広を睨んだ。
しかしニコニコスマイルであっさりかわされた。


「・・・・・・・・だめ?」

ウルウルと見上げてくる。


そんな目をされたら、嫌とは言えないではないか。



「・・・・・・・・・・・わかった・・・」


「やったぁ!」
「なら、さっそく行こうか。騎獣使っても結構遠いからね」
「はい、行きましょう!」
「・・・・・いいね、風漢」
「・・・・・・・勝手にしろ」

利広はクスクスと笑った。



さすがの風漢でも、あの娘には勝てないと見える。

それに、鳳綺も。
初めて会った時は、大人しくて悩みを内に秘めている感じだったのに、
今は全身で幸せを表しては、光るように笑っている。


・・・・・・あの少女のような笑顔が、本当の鳳綺なんだろうね。


やっぱり噂は間違っていなかった。



























雁から奏まで。

移動手段はすう虞と吉量。
高級な騎獣と言っても、その道のりは遠い。


時折、下に降りて休憩をしたり食事をしたりして再び飛び続ける。
そして、約5日ほどで奏に着いた。






十二国でも温かい気候とされる、奏南国。

その首都、隆洽。




「へぇ~~大きい~~・・・・・!」


それが素直な感想だった。

「関弓よりも大きい街初めて見たぁ・・・・!」
「気に入ったかい?」
「はい、すっごく!」
「ならよかったよ」
「ねぇ尚隆、早く見に行こうよ!」
「・・・・・・あぁ、行ってこい」

鳳綺は嬉しそうに人並みに紛れていった。
走り回るようにキョロキョロと店を見ていく姿が何とも可愛らしかった。


「・・・・ふふ・・・」

まだ隣には利広がいて、こっちに笑いかけていた。

「・・・・・・・・・何だ」
「いや、可愛いなあと思ってね」
「・・・・・・・・・・・」

尚隆はそっぽを向いた。
以前に利広の前で失態を犯してしまったからか、意地悪く笑う奴に何も言い返せない。

「・・・・・あの子だよね?」
「何がだ」
「風漢が血相を変えるほどご執心の子」
「・・・・・・うるさい。・・・・・お前こそ何のつもりだ」
「何が?」
「こんな所まで連れてきて・・・」
「まぁね・・・・・・」

含み笑いをすると、利広は鳳綺を追いかけていった。


「・・・・・・・・・ふん」

尚隆は面白くない。
知らない所で鳳綺が利広と知り合いだって事がまず気にくわない。









「へぇ・・・・・やっぱり雁とは違うんですね・・・・・」
「国が違えば文化が違うからね」

鳳綺は目を輝かせたまま利広に微笑んだ。

「・・・・・・鳳綺、よかったら私の家に案内したいんだけど・・・」
「えっ!?でもそんな・・・・悪いですよ・・・・」
「いいんだよ。私の家族も歓迎してくれるし」
「利広さんのお家、行ってみたいけど・・・・・・」

知り合いと言っても男の家だ。
それに家族までいるとしたら・・・・・少しは躊躇する。


「・・・・・あ、尚隆・・・・」

ようやく尚隆が追い付いた。

「どうした?」
「えっと・・・・・利広さんの家に案内してくれるって言うんだけど・・・・・」



そうか、それが目的か・・・・・・・



尚隆は利広を睨んだが、またしてもスマイルでかわされた。




「やっぱり、悪いよね・・・・?」
「・・・・・・・・・行きたいなら別にかまわんぞ」
「え!?」
「なら決まりだね」
「え・・・・えぇ・・・それなら・・・・・」

予期してない尚隆の反応に鳳綺は首を傾げながらも、利広の案を了承した。

「・・・・・・風漢はどうする?」
「・・・・・・・・俺はいい」
「え?行かないの?」
「あぁ、俺は遠慮する」
「え~・・・・・?」

寂しそうに見上げると尚隆は鳳綺の髪を撫でた。

「俺はここにいるから・・・・・・楽しんでこい」
「う、うん・・・・・・」
「じゃあな、明日にでも落ち合おう・・・・」
「あ、尚隆・・・・!」

追いかけようと思っても尚隆の背中は既に小さくなっていった。


「・・・・・・尚隆・・・・」
「ま、私の家だからね、風漢は行きたくないと思うよ」
「え・・・・何でですか?」
「行ってみればわかるよ」



利広は尚隆とは反対方向に厩へと戻る。



「あれ?騎獣に乗るんですか?」

不思議がる鳳綺に、利広は満面の笑みを浮かべた。



「そっちの方が近道だからね」











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続きます。

利広さんはホント扱いやすい(笑)
さて、次は利広さんの「お宅訪問」でゴザイマス
ウフフ(キモい・・・)