人には天命に近い縁のようなものがある。
奏の時も、気がついたら清漢宮にいて宗台補や宗后妃にお会いした。
どうして、いつもいつもこのような運に巻き込まれるのだろうか。
今回だって、偶然来た範で偶然やっていた祭典に出ただけなのに。
気がついたら氾台補が苫珠似の顔してやって来て。
そして、今度は・・・・
君と共に ~範~ 3
氾麟に連れて行かれたのはどこかの屋敷だった。
それは上等なんてものじゃなく、明らかに最高級の門構えだった。
柱一つ一つにも金や銀の装飾がなされていて、さらにそれは繊細。
流れるような流線形の模様があつらえてある扉をくぐると、奥は既に別世界。
玄英宮のようであって、ある意味そうではない。
建物自体が芸術作品であるかのように、見た事のない技術がふんだんに使われているのがわかる。
「・・・・・すごい・・・」
単にお金の無駄遣いなんかじゃない。
範にとってはこれ自体が国の財産なのだと思う。
たわわに実る作物がその重みでズッシリと揺れている田園風景のように、
範の民が平和に暮らしている証が、この屋敷なんだ。
その奥、華美な訳でもない美しい調度品に囲まれた部屋に、氾麟が会わせたいという人はいた。
「こちらです、延后妃」
鳳綺は一瞬、目の前の人物に息を呑んだ。
それは威厳や、その容姿からでもあったが、それ以上に彼の着ている衣装に釘付けになった。
・・・・・・・なんで、女物の衣装なの?
かと言って、大柄な男が女装するような気持ち悪いものでは一切なかった。
背は高いのにガッシリした体型ではなく、どこか中性を思わせる。
そしてこの国の美の象徴を全て凝縮させたような衣装。
女であってもそれを着こなすのが難しそうな素敵な布地も、
彼は端整な顔立ちだからとてもよく似合う。
おそらく本当の美人というのは、こういう人の事を言うんだろう。
「・・・・氾王で、いらっしゃいますか?」
一瞬疑ってしまいそうになったけど、麒麟があのように付き従うのは氾王でしかない。
「おや、すぐに見破られてしまったね。もう少し秘密でいたかったのにね」
氾王はその容姿にぴったりな、少し低めの上品な声。
本当に仕草から何まで、荒々しい所がない人物だった。
「初にお目にかかります、雁州国王后、鳳綺と申します。もっとも、正式なものではなく野合ですが」
「うむ、やはり振る舞いも綺麗だね。
私は範西国主、呉藍滌と申す。突然で驚かれただろうね」
苫珠達に叩き込まれた正式な礼をとってみせると、藍滌は満足そうに笑った。
美の象徴たる氾王に思わず見惚れそうになるけど、その完成された容姿は逆に気後れしてしまう。
「いえ・・・氾王と氾台補は何故このような場所に?」
「今日は年に一度の芸術の祭典でしたでしょう?
主上はあのような催しをご覧になるのがお好きなんです」
確かに規模が大きいなぁと思っていたけど、
まさか範主従がお忍びで見に来るほど大々的なものだったとは。
「次代の範を担う大事な人材調査の為にこうして隠れて来ていたのじゃが、
まさか延后妃が出場しているとは思わなかったよ」
「しかも優勝までしているなんてね」
いい拾い物をしたと言わんばかりに藍滌と梨雪は笑う。
「はぁ・・・お恥ずかしい限りです。新しい氾王が登極されましたし、
一度来てみたいという事もあって物見に来ていたんですが、たまたま学生達に頼まれまして・・・」
「それであの衣装かえ。あれは中々よい仕立てだった」
「ありがとうございます、そう言っていただけると出た甲斐がありました」
確かに、露出が多かった事を覗けばいい衣装だった。
氾王の目に止まるのだから、あの学生達の未来はきっと明るい事だろう。
恥ずかしかったけど出てよかったなと、鳳綺は安心した。
「そういえば延后妃はお一人でいらっしゃったの?」
「いえ、主上もこちらに来ています」
何気なしに答えると藍滌は明らかに顔色を変えた。
「何と、あの猿山の猿王まで来ているのかえ?」
「・・・・・え?」
猿山の・・・え、猿王?
一瞬、自分の耳を疑ってしまった。
「延后妃だと聞き及んだ後も、やはり猿王の妻だなんて全く理解できない」
「・・・・・・えっと・・・」
「あのような野蛮な猿王に妻がいると聞いて、
全くどんな趣味を持った女人なのか気になっていたのだけど、まさかそなたとは」
「そうですね主上、まったく月とスッポンです!」
「・・・・・・・・・」
急に語気を荒げた2人に鳳綺は何と言ったらいいのかわからない。
やはり話の筋からいって、猿王とは尚隆の事だろう。
・・・・確かに、目の前の氾王とは正反対の性格をしている気はする。
尚隆は豪快、というかまさしく肉体派だと思う。
すぐに宮を飛びだしては市井で生活しているし、剣を扱わせれば右に出るものはいない。
だけど、氾王は・・・何というか女性的だ。
範全体の雰囲気からしても、王の繊細さが窺える。
おそらく氾王は外で剣を振り回しているくらいなら、部屋でお茶でもしている方が好きそうだ。
肉体的、という考えが皆無な氾王にとって、尚隆は野蛮な動物的に見えるのだろう。
尚隆が言っていた、「俺とは根本的に全てが違う」と。
おそらくこの2人は、趣味や性格からして本質的に全く合わないのだろう。
だから尚隆は氾王の即位式に出てから複雑な顔をしていたんだ・・・・
「そなたはあの猿王に似ず、穏和で清楚、そして美しい。
範独特の衣装もよく着こなしていた」
「・・・・・・・あ、ありがとうございます・・・」
少し複雑な心境だけど。
「美しいものは好きだよ。そなたは何を着ても似合いそうだね」
「そうですわ主上、延后妃にこれらの衣装を着てみてもらったらどうでしょうか?」
「え?」
さっきから気になっていた、部屋にズラリと並んでいる衣装の数々。
どれもこれも、珍しい柄ばかりがあしらってある。
「そうだね梨雪。延后妃、こちらはさきほど出来上たばかりの試作。
一度誰かに着せて完成度を見ておきたかったんじゃが、そなた着てみるかえ?」
「い、いえ・・・・私ではそのような大任まかりかねます・・・っ」
「なんと、そなたはその美だけではなく、奥ゆかしさも持ち合わせていたとは。
益々気に入ったね、そうだろう梨雪?」
「ええ、是非とも範の財を着ていただきたいです」
「・・・・・・・・・・」
この雰囲気について行けないのは、私だけなんだろうか・・・・?
そうして鳳綺の抵抗虚しく、恥ずかしい試着お披露目が行われた。
何着目かわからない衣装に着替えて御前に立つと、氾王はいつになく満足そうに頷いた。
「うむ、その衣装はとても似合っている」
「ええ、色具合が今までで一番いいですね」
「・・・・・・・・・あ、ありがとうございます・・・」
もう抵抗するのも諦めた鳳綺。
「気に入ったのなら、この衣装を持って帰るとよい」
「え!?そ、そんな・・・そんな事をしていただく義理は・・・!」
「よい、美しいものを見せてもらった礼だ」
この2人にはどれだけ抵抗しても無駄になりそうだと判断した鳳綺は、
素直に受け取る事にした。
「・・・・・・・ありがとうございます氾王、そして氾台補」
「うむ、やはりあの猿王の妻にしておくのはもったいない」
「ええ、こんなに上品な方なのに」
――と、ちょうどその時に来客の知らせが入った。
その名を聞いて鳳綺は驚き、範主従はどこか嫌そうな顔。
「・・・・・・・何をしている」
尚隆は開口一番、鳳綺の姿を見て呟いた。
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藍滌様の口調、意味不明すぎます。
原作見ても統一されてないから難しすぎる。
ギャグです、途中までは違ったのになぁ範主従。
でもギャグにしきれなかった、無念。