それは、予想していたよりももっと多くの観衆が集まっていた。
これからの範を担っていくだろう個性溢れる学生達の他に街の人達も多数いる。
そして観衆達が注目しているのが、これから順に舞台に立つであろう出演者。

控え室には煌びやかな衣装に包まれた美人ばかり。
チラリと見える装飾品も非常に精巧な作りで、女性の美しさを引き立てる。
おそらく範の美を全部集めてきたんじゃないかと思うぐらいの光景が広がっていた。
輝きすぎて目がまわりそうなくらいだった。



結果から言うと・・・・・・言わなくてもわかると思うが、優勝したのはやはり鳳綺だった。







君と共に ~範~ 2







昨日頼み込んできた女の子達の腕もたいしたもので、衣装も装飾も素晴らしいものだった。
確かにこの衣装であれば誰でも入賞を狙えただろう。

しかし幸か不幸か、これを着たのは偶然にも鳳綺

当の本人は無自覚だが、鳳綺の容姿には苫珠はじめ女官達の並々ならない努力が費やされている。

湯浴みの後には嫌がる鳳綺を無理矢理押さえつけて香油を全身に塗りつけたり。
潤いを保たせる為に髪にも毎日それで梳かし。
さらには微かに匂い立つように毎日着る衣装にも 鳳綺特有の香を焚きしめる。
その他顔から背中から手足の先まで、女官達の手が届いていない場所はない。

鳳綺が過去にいた他国の王后のように、
傲慢で美だけに溺れているような人であったら、女官達もこれほどヤケにはならなかった。
思い上がらず謙虚で自分の仕事を一心にこなし、
だけど無邪気で自分の事に関しては無頓着な彼女であったから、女官達は自身の主に尽くそうと思った。

彼女にはそのままの笑顔で、そして美しくいてほしいと。
そして野合という正式の夫婦ではない事から鳳綺が軽んじられないようにという願いを込めて。

鳳綺の全身からは、彼女が自身の主であるという誇りと、
どんな形であれ彼女が雁の王后であるという自信と威厳が溢れている。
それは、無邪気な彼女にその気持ちを面と向かって言葉にはできそうもない代わりに、
苫珠や女官達が百年間の想いを惜しげもなく詰めこんだから。

まさに血のにじむような努力の毎日があるから今の鳳綺がいる。


鳳綺が舞台に上がると観衆は皆息を呑んだ。
艶やかな黒髪は後ろ髪を残し結い上げられ、それ以外は縛られるのを嫌がるかのように一本一本が細く流れている。
黒を彩る鮮やかな髪飾りは赤や紫などの上品な色でまとめられ、まるで鈴が鳴るかのように微かな音を立てる。
身を包むの衣装は薄い布地が重なり合い流線型を描く。
普段着るものよりも肌が露出しているが、妓楼の女達が身につけるようなものよりももっと上品に、もっと繊細に映る。
遠くからでもわかる柔らかそうな玉肌。





そう、負ける訳がない。

たとえ鳳綺よりも美しい容姿の人がいたとしても、彼女の内側から溢れる、
彼女を慕う人々の想いの結晶には勝てない。














「何か・・・・・いいのかな、こんなに・・・」

鳳綺は両手いっぱいに包みを抱えてポツリと呟いた。

優勝賞品やら、学生達からのお礼の品やら、おまけに茶器一式までももらってしまった。
こんなに荷物抱えて宿に帰ったら尚隆にどう言い訳したらいいのかわからない。
あまり豪華なものは買わないようにと、いつも自分が率先して節約していたのに。

しかし、何度も何度も振り返り礼をしながら嬉しそうに去っていく学生達を見たら、
鳳綺も安堵と嬉しい気持ちの方が大きかった。
彼女達の夢を叶える事を少しでも手伝う事ができたのならよかった。

「・・・・・頑張ってね」

鳳綺はもう誰もいない街道で呟いた。


「不思議な人・・・・・貴女のような人は珍しいわ」


突然後ろから高い女性の声が聞こえた。

「・・・・・え?」

少女とも言える声とは反対に、顔はもう少し大人びていて、赤橙色の長い髪。
彼女は、苫珠に似ていた。

「前から貴女に会いたいと思っていたのよ、まさかこんな所で会うとは思わなかったけど」
「あ、あの・・・・」

苫珠の顔だけど、苫珠じゃない。
だってあの女御はこんな風に柔らかく微笑んだりしない(そんな事言ったら本物に何をされるか怖いけど)
もっとケンカ腰だし、もっと偉そうだし(どうしよう、家に帰れないかも)

「どうしました?」
「いえ・・・・し、知り合いに似てたので・・・」

違うとわかっていても、どうやら鳳綺はこの顔には弱いらしい。
すると苫珠似の彼女はまた上品に笑った。

「では、その知り合いの方は貴女にとって大切な人なのね」
「え・・・?」

さらに訳がわからなくなっていく鳳綺とは反対に彼女はどこ吹く風。

「紹介が遅れましたね、私は今は梨雪と呼ばれています」
「梨雪・・・さん?」

「お初にお目に掛かりますわ、延后妃」


今度こそ鳳綺は跳び上がるほど驚いた。
さっきより煌びやかな格好もしてなくて、さらにこんな両手で荷物抱えてる自分は、どこからどう見たって王后なんかには見えない。
しかも目の前の彼女は『延』と国名まで当ててしまった。

「ど、どうして・・・・!」
「あら、だって貴女から使令の気配がするんですもの」
「ぇ・・・」

さらりと答える苫珠似の女性。
確かに六太の使令が付いてきてくれているけど。

「使令が付くのは主である麒麟と、王と王の妻子ぐらいでしょう」

逆に言えば・・・使令の気配がわかるのは、おそらく麒麟ぐらい。

「加えて黒い髪に銀の瞳・・・・その幻の后妃の話は結構有名なのよ?」


ここは範・・・では、目の前にいる人は・・・


「・・・・・・貴女は、氾台補でいらっしゃいますか?」


すると苫珠似の彼女はニッコリ笑って、頭に被っていた何かを脱ぐ仕草をした。
透明な何かがはぎ取られたようだと感じた次の瞬間には、目映いばかりの金の鬣の麗しい少女が目の前にいた。

やっぱり氾麟・・・・!


「貴女には前々から興味があったの」



・・・・どうして、いつも巡り会ってしまうのだろうか。
その気はなくても向こうから貴人がやってくる。



・・・・・・・これが、天命っていうもの・・・・・・?



そんな天命はちょっと嫌だと鳳綺は空を見上げた。











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短めですが切りました。
ファッションショーで何がしたかったかって、ただヒロインが綺麗だという事が言いたかっただけ。

やっと氾麟に会えたので藍滌様が出てくるのも時間の問題v
っていうか氾麟&藍滌様の口調が難しいっ。
とりあえず頑張って似せようとは思います。

範旅行記は特に大したイベントもなくてほのぼのしっぱなしの予定なのであしからず。