5章―休日―






不思議な出会いだった。

尚隆という人は本当に何を考えているのかわからない。
さらによくわからないのは、
もう会わないかもしれないと思っていた尚隆とまたしても再会してしまったという事だ。

というのも、尚隆は何故か鳳綺が休みの日に限っていつも遠出の誘いに来たからだ。
どうしてこちらの予定を知っているのかと問いただしてみても「知り合いがいてな」としか答えないし、
文句が言いたくても「俺に会いたくないのか」と言われれば返答に困ってしまう。
仕事は大丈夫なのかとか、そんなに暇なのかとか、聞きたい事はたくさんあったけど、
今となってはそんな小さな疑問は消えてしまった。

遠出と言っても、ただ街のあちこちを見て回ってその日の内に帰ってくるという、それだけの事。
容昌や烏号など、主要な街はだいたい行ったと思う。

尚隆は誘ってきたくせに何も言わず付いてくるだけであったが、
時折優しい眼差しで此方を見守っているから、鳳綺はくすぐったい気持ちで彼の気配を気にするようになっていた。


大学では勉学、少ない休日は尚隆との街探索という生活に慣れて一、二ヶ月が過ぎた頃、
いつものように厩に顔を出しに行ってみるが、琉綏の隣に寝そべっているすう虞が今日は見当たらなかった。

「あれ……いないんだ……」

たったこれだけの事で、何となく気が重く感じる。

目ざとい尚隆の事だからきっと今日も来ているのだろう、
そう思っていた鳳綺は気落ちしたように琉綏の鬣に指を絡ませた。

「ごめんね琉綏、今日はお散歩できないみたいなんだ……」

燃えるような鬣は見た目より柔らかく、琉綏もどことなく残念そうな声を出した。

「――いい吉量だな」
「え……?」

ついさっきまで聞こえなかった足音が背後で聞こえた。
反射的に声の主を振り返ると、そこには頭を布で覆い被せた少年がいた。

「え、ええ……」

突然の小さな来訪者に驚きつつも、鳳綺はいつもの笑顔で答えた。

「この辺では珍しいな」
「ええ、知り合いに戴いたんです」
「へぇ~ずいぶんと羽振りがいい奴なんだな」

少年は琉綏に近寄り、鳳綺がしたように鬣に触れる。
琉綏が気持ちよさそうにその手を受けていたので鳳綺はまた驚いた。

「珍しい……琉綏はあまり他の人には懐きませんのに」
「ハハッ!そうか?」

ニッと快活に笑う少年の顔が印象的だった。
見た目は年下なのに敬語ではない口調だったが、それがとても自然で不快感などは覚えない。

「あ、俺は六太っていう。お前は……鳳綺、だよな?」
「ええ……どうして私の名を?」

本当に鳳綺はこの少年に驚かされてばかりだ。

「ちょっと風の噂でね」
「噂?」

六太は鳳綺を見上げ顔を覗き込んだ。
その瞳の色に間違いはなかった。

「大学に銀色の目を持つ美人がいるってな」
「銀色の目って……え、私ですか?」
鳳綺って名前らしいからそうだと思うぞ」
「そんな……美人なんて、他にもいくらでもいるじゃないですか……」

鳳綺は顔を赤くして俯いた。
目を伏せる仕草がまた美しくて、六太も思わずまじまじとその様子を眺めた。

「でも本当に綺麗だぞ」
「からかわないで下さい……初めてそんな事言われたから、どうしていいか……」
「……、本当にないのか?」
「ないですよ……」

変なの、何で皆言わないんだろうと、六太はそんな事を思った。

「六太さんは……大学の人ですか?」
「『さん』はいいよ、普通に呼んで。――俺は違うよ。
ちょっと散歩がてらに噂の人物を探しに来たってとこ。気まぐれってやつ」

前にも聞いたような台詞に鳳綺はくすくす微笑んだ。
何だかさっきまでの暗い気分が晴れていくようだった。

「ふふ、ごめんなさい。どことなく知り合いに似てたので」
「……知り合い?」

それを聞いて一番考えたくない顔を思い浮かべてしまった。
六太は苦虫を噛みつぶしたかのように眉間に皺を寄せた。

詳しく聞きたくはなかったが、聞かずにはいられない。

「……そいつって、この吉量くれた奴?」
「え?ええ……」
「呑気で馬鹿でいい加減な奴……?」
「……?尚隆の事知っているんですか?」

六太は大きな溜息を落とした。

「はあ、遅かったか……」
「え?」
「いや、何でもない……尚隆――」

と言いかけて、ふと気がついた。
尚隆が一般人に本名を教えるなど、珍しい事この上ない。
どういう風の吹き回しなのだろうか。

「?尚隆の知り合いなんですか?」
「ん?あ、あぁ。知り合いっていうか何ていうか……腐れ縁か?」
「尚隆ってどんな人なんですか?
普段は……あ、こんな所で立ち話もなんですから、中でお茶でも如何ですか?」

鳳綺の顔が急に明るくなって嬉しそうに六太を誘う。

「中入っていいの?俺一応部外者だし」
「少しくらいかまいませんよ」
「……じゃあ遠慮なく」

六太は言われるまま厩を後にした。


















「尚隆!」

六太は王の執務室に勢いよく飛び込んだ。

「何だ」

尚隆は視線すら上げず、山積みにされた紙面を見つめている。

「何で言わなかったんだよ!」
「何がだ」
鳳綺といつの間に知り合ってたんだよ」
「お前が面白い話とやらを聞きつけてくる前からか?」

尚隆はあっけらかんと答えたが、明らかに顔は面白がっている。
してやられたと、六太は肩と拳を震わせた。

「で、どうだったのだ?お目当ての女は」
「……噂に違わず綺麗だったぞ。でもすごく上品で大人しい感じだった。尚隆ああいうのが好みだったか?」

ふっと笑みが聞こえた。
尚隆の内心の優越感に六太は気づかない。

「何ニヤついてんだよ。気持ち悪ぃよ」
「お前はわからんでいいぞ」
「ああ??」

(ホントこのバカ殿は何考えてんのかわかんねぇ……)

そんな事を思った六太だった。











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六太夢?
ただ六太との出会いが書きたかった一休みな話です。