09-2
コナンが言っていた通り割安だった豚肉と牛肉を両方買い、来た道を戻った。
スーパーで哀達と合流するが、元太と光彦の何気ない言葉から話は思わぬ方向に進んでいく。
なんでも、壺を紹介する為にネットに公開した阿笠の動画に哀が映っていたらしく、それを聞いたコナンが血相を変えた。
良くない事態だという空気はわかるが、どうして彼女が映っていると駄目なのだろう。
事情があまりわからない美弥は子供達の会話をただ聞いているしかなく、
哀が携帯で阿笠の家に電話をかけているのを困惑しながら見ていたが、いくらコールしても繋がらない。
確かに誰も出ないというのはおかしい、家には阿笠や歩美もいたはずなのに。
買い物もそぞろに慌てて皆で家に戻ると、玄関のドアを開けたすぐ傍で阿笠が倒れていた。
「博士!」
その光景にビクリと美弥の全身が硬直して、恐怖が呼び起こされる。
だけどコナンが何度か呼びかけると阿笠が目を覚ましたので、ひとまず安堵の息を吐く。
来客があったので出たらスタンガンのようなもので気絶させられたらしい。
さらに、家のどこを探しても歩美がいない。
阿笠が鑑定したがっていた壺は残っていて、その場に敷いていた絨毯がなくなっている。
コナンは、何者かが歩美を絨毯にくるんで連れ出したのだろうと言った。
(ゆ、誘拐!?)
動画に哀が映っていたという事は犯人の本当の目的は彼女で、代わりに歩美が連れ去られた可能性があるらしい。
オロオロしている間に残されていた携帯から犯人のメッセージが届き、歩美を返してほしくば添付された画像の猫を探せと脅された。
「ね、猫を探せばいいの!?」
展開に付いていけなかったが、警察には言うなと警告されてしまった以上、とにかく歩美を助けてもらうには猫を探さなければならないらしい。
自分の知り合いが誘拐されるなんて事未だかつてなくて、心臓がバクバクと音を立てながらもそこだけは何とか理解した美弥は外に飛び出した。
どうして猫なのだろう、この画像に写る猫は一体何なのか。
疑問ばかりが残るが、それを言っても今は仕方ない。
自分の携帯にも転送してもらった画像を頼りに、美弥は子供達とは別で周囲を走り回る。
住宅の隙間だったり、公園だったり、だけどどこを探しても目的の猫は見つからない。
この広い街で特定の猫を探すなんてかなり難しいのではないかと思う。
だけど美弥は諦めたくなかった。
(子供達ぐらい守れなくてどうする!)
コナンのように頭の回転は速くないし、何もできないけどそれぐらいは役に立ちたいと、美弥は額から流れてくる汗を拭いながら走った。
気が付けば高く昇っていたはずの太陽は傾き、辺りは夕日の赤色に染まりだしている。
息が上がっているのか恐怖からなのか、胸が苦しくて浅い呼吸を繰り返しているとコナンから着信があった。
「あ、歩美ちゃん見つかったの!?」
「ボク達もこれからその場所に行くところ!」
猫は見つかったと、犯人から連絡があったらしい。
慌てて指定された場所に向かえば、くるまれた絨毯から助け出された歩美が哀にしがみついて泣いている所だった。
(よかった……!)
知らず震えていた指先を握り、大きく息を吸い込んでゆっくり吐き出した。
とにかく大きな怪我がなくてよかった。
家に戻り、歩美も見つかって一件落着かと思いきや、コナンは違うと首を振った。
犯人は歩美を人質にして猫を探させたかった訳じゃなく、本当の目的は絨毯だったのだとコナンは言う。
壺の下に敷いていたそれがたまたま高級なペルシャ絨毯だったのではないか、そして絨毯をすり替えた事を気付かせないように歩美を誘拐したのではないか。
阿笠から聞いた話を元に並べられていく論理に美弥は曖昧な相槌をするしかなかったが、コナンの洞察力や推理力の高さにただ感心するばかりだった。
呆けたようにまじまじと見つめる美弥の視線に気付いたのか、コナンが少し慌てた。
「あ、新一兄ちゃんから似たような話を聞いたんだ!」
「そうなんだ……」
後から取って付けたような子供っぽい言葉遣いで自分の考えじゃないんだと主張されたが、美弥はさして気にしていない。
むしろ、真剣に考えこんでいるコナンの表情はどこか格好よかったから、そっちの顔の方がいいなと思っている。
犯人を絞り出し、近所のインテリアショップに突撃する話になったのだが、
阿笠の車に子供達が全員乗ると流石に定員オーバーなので、美弥は家に残る事になった。
「じゃあ私、カレー作って待ってるよ」
「やったぜ!」
「よろしくお願いしますー!」
本当を言うと、絨毯が欲しいが為に小学生の女の子を誘拐した犯人をこの目で見たかったが、車に乗れないなら仕方ないし、
何より子供達が空腹を訴え始めていたので、帰ってきたらいつでも食べられるようにしておきたかった。
案の定子供達は飛び上がらんばかりに喜んだので、美弥は小さく笑った。
「じゃあ行って来るね、美弥さん」
「うん、気を付けてね」
聡明な眼差しで微笑むコナン達を送り出す。
犯人が逆上したりしないか心配だったが、阿笠もいるしきっと大丈夫だろうと思いたい。
それに、美弥が同行してもできる事はないだろうから。
(結局、これぐらいしかできないのよね)
誰もいないキッチンに立ち、苦笑する。
でもきっと満面の笑みを見せてくれるんだろうなと思ったら、不思議とやる気が出てくる。
材料を確認してみると買い直した豚肉と牛肉はあるのだが、野菜は途中で切り上げてしまったので半端な量しかない。
玉ねぎも数が少ないのでこのままでは物足りないだろう。
好きに使ってくれていいからと哀から許可はもらっているので、拝借しますと念じながらキッチンの戸棚を開く。
長ネギとキャベツがあったので、玉ねぎの代わりにしようと取り出して細かく切る。
人参とジャガイモの残りも使って、あとは一回目と同じ工程。
それから板チョコレートを見つけたので少しだけ頂いて欠片を入れて、ソースも加えて味を調節した。
あり合わせの具材で手短に作り上げたが、なかなか良い感じに仕上がったと思う。
玉ねぎ達が溶けて甘味が出てきた頃、外が騒がしくなってみんなが帰ってきた。
「おかえりなさい」
「あー腹減ったぜー!」
「やっとカレーが食べられますー!」
どやどやと戻ってきて口を開くやカレーの寸胴鍋に集まってくる子供達。
スッキリした表情のコナンを見れば、どうやら事件は解決したようだとわかる。
何よりも夕飯を食べたがったのですぐに皿に盛り付け、テーブルに並べれば皆が素早く席に付いた。
インテリアショップの店主達に証拠を突き付け、犯行を自供させて、その後は警察に連行されていったんだと事件の顛末を話しながら、
子供達は凄い勢いでカレーを掻き込んでいく。
「お、うめーぞこれ!何でかわかんねーけどうめー!」
「何だろう、いつもと同じみたいだけど何かが違ってておいしい!」
「ホント?よかった」
元太も歩美も、それから光彦も、不思議な顔をしながらも美味しいと口々に言ってくれた。
「なるほど……足りない玉ねぎの代わりに、長ネギとキャベツで甘味と深みを出してるのね」
「ソースも入ってるね、これ」
「……詳しいね、二人とも」
冷静に分析する哀とコナンには参ったが、味に満足はしてくれてるようなので嬉しい。
チョコレートは流石に気付かなかったみたいで、美弥はコッソリと笑った。
一人前に事件を解決させた子供達、少年探偵団の名は伊達じゃないらしい。
探求心が強くて勇敢で、だけど戻ってきた彼らはカレーひとつで美味しいとはしゃぐ。
笑顔が眩しくて可愛いなと、美弥は目を細めた。
「美弥さん、今日はありがとう。二回もカレー作ってくれて」
「ううん。作るのは楽しいからいいんだよ」
最寄りのバス停に歩いている途中でコナンがポツリと呟いた。
暗いから車で送るよと言われたが、子供達も送ってあげないといけないだろうから美弥は断った。
ならせめてと、コナンがバス停まで付いてきてくれた。
逆にバス停から戻る時に小学生を夜道一人で歩かせる事になるじゃないかと反対したのだが、「ボクはこの辺慣れてるから」と彼は頑として譲らなかった。
(そういう所が子供っぽくないんだよね)
けど、彼に気を遣われるのは何だか嬉しいような気もした。
きっと大きくなったらさぞかしモテるんだろうなと思った。
「でも、ごめんね……せっかく来てくれたのに、変な事になっちゃって」
「うん?コナン君は悪くないよ」
そう、彼が謝るような事は何一つないのだ。
悪いのは歩美を誘拐して、なおかつ絨毯をすり替えた犯人なのだから。
だけどコナンはまだ残念そうな顔をしていて、少しだけ言い辛そうにしながら口を開く。
「……本当は、昴さんに頼まれてたんだ」
「え?」
「美弥さんが元気ないだろうから、みんながいる時に一緒に誘ってあげて欲しいって」
「…………」
どうして彼が、と思ったが、きっと前の事件で発作を起こした美弥を心配してくれたのだろう。
落ち込んでいるだろう事も予測し、気分転換のために頼んでくれたのか。
自分が動くのではなく子供達に任せたあたり、わかりにくいけれど。
「……本当に、優しい人ばかりだね」
内密に用意された優しさが心に染みる。
昔からの気の置けない親友とかでもないのに、美弥が出会った人は皆親切にしてくれて、厚意を向けてくれる。
「ちゃんと元気でたよ、ありがとう」
「……うん」
頬を緩ませて笑えば、眉尻を下げていたコナンが美弥を見上げ、そして笑い返してくれた。
彼にも何かお礼をしないといけないな、とそんな事を考えながらバス停まで二人並んで歩いた。
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原作に沿ってるだけの所はなるべく削りたいのですができませんでした。