もう一度会えたなら
今度こそこの想い、譲りはしない
たとえ神を敵に回そうとも
譲れぬ想いと銀の天秤
「へ~これが貞州府かぁ~」
鳳綺は遂人の仕事で書類を届けにここ貞州に来ていた。
首都・関弓がある靖州の隣に位置し、芳陵や烏号などの街がある州である。
貞州府も玄英宮と同じように凌雲山であるが、やはり首都とは少し見劣りがする。
それでも廊下や壁の装飾は精巧で時折宝石も散りばめられていて、思わずほ~っと感嘆の声を漏らした。
今は貞州府でも下の階層にいるからか、廊下を歩く人は少なくない。
目をキョロキョロさせながら鳳綺は奥に進んでいく。
「さて、とりあえずこの書類を持っていかないと・・・・・」
貞州での地官長である州司徒の部屋に直接趣き、鳳綺は頭を低くさせながら書類を渡した。
本来なら遂人の仕事にこんな事はないが、直属の上司である大司徒に許しを得て鳳綺自ら書類を届ける役目を買って出た。
・・・・・つまりは、半分は貞州府を見てみたいという好奇心でここに来ていた。
頭の固そうな州司徒とのやりとりも終わり、鳳綺は部屋の外で軽く伸びをした。
どこに行っても遂人が若い女な事に驚かれ、相手によっては女だとタカをくくって接してくる人も少なくない。
今回の相手はそんなに悪い印象もなかったが、それでもやっぱり肩がこる。
「ん~~~・・・・・・・一応仕事も済ませた事だし・・・」
少しくらい観光したっていいよね・・・・・・?
この後は帰るだけだがそれでは味気ない。
むしろ半分はその為に来たのだから、誰とも知れぬ相手に許可を求めながらもしっかりと観光する気であった。
・・・・・・そういう訳で鳳綺の得意な物見巡りが始まり、見て回れるような所は全部覗いて歩いた。
途中、数人の官吏からは不思議な目で見られもしたが、幸い鳳綺は咎められるような低い地位ではなかった。
「・・・・・・・・鳳綺・・・・?」
「え?」
ふいに声をかけられ鳳綺は前方にいる人物を凝視した。
目が合うと、声をかけたと思われる人は驚きを隠せないといった顔付きだった。
そしてその男の人は鳳綺のよく知る人であった。
「・・・・・・・雄飛?!雄飛じゃない!」
「本当に鳳綺か・・・・・?!久しぶりだな、どうしたんだよこんな所で!」
鳳綺に走り寄ってきたのは、大学時代に一番の親友であった雄飛だった。
遂人になって玄英宮に昇ってからは一度しか会っていなくて、
雄飛が大学を修了したという話は3年くらい前に聞いて、そこからの消息はわからなかった。
どうなったのか知らされなかったし、探そうにしてもこの広い国で一人を見つけるのは困難だった事もあって、
一時期ふて腐れていた事を思い出した。
「そっちこそ~!貞州府にいるなんて全然知らなかったよ~」
「ま、まあね。もう少ししたら鳳綺に知らせようと思ってたんだ。けど、今日はどうしたんだ?」
「うん、ちょっと書類を届けに来たの。でも・・・・・・」
言いながら鳳綺は雄飛を見上げた。
貞州府にいるって事は仙になった訳なんだろうけど、久しぶりに見た雄飛はどことなく顔付きが変わっていて。
少し背が伸びた気もするし、どこか・・・・・・そう、表情が大人びているようだった。
「雄飛、何か変わったね・・・・・・・5年ぶりくらいだからかな?」
「そうだね。鳳綺は・・・・・・全然変わってないね」
「え、そう?そう言われるのって、あんまり嬉しくないね・・・・・仙だからしょうがないんだけどさ」
「変わってないよ鳳綺は・・・・・・本当に変わってない・・・・」
顔を膨らませて拗ねる鳳綺を見下ろし、雄飛は柔らかく微笑んだ。
その雰囲気は以前と変わらなくて鳳綺は少し安心感を覚えた。
「雄飛これから時間空いてる?久しぶりに市井でご飯でも食べようよ~?」
「はは、『市井』か・・・・」
「え?何か変な事言った?」
「いいや、しっかり神仙になりきってるなって思ってさ」
クスクスと笑う雄飛を余所に鳳綺はまたしても拗ねてみせた。
「む・・・・・・なんだかんだ言ってもう5年は山の上にいるんだからしょうがないでしょ~?」
「悪いなんて言ってないだろ?ちゃんと神仙として頑張ってるっていう意味だったんだけど」
「う・・・・・・・雄飛、やっぱり変わった気がする・・・・」
前はこんなに意地悪言うような人じゃなかったのに。
「そりゃね、人間少しは成長するからさ。・・・・・・鳳綺は変わってないけどね」
「それ、私は成長してないって事~?!」
「はは、良い意味で変わってないって事だよ」
またしても軽くあしらわれてしまった。
雄飛と話していると何だか自分が幼く感じてしまう。
同じ年だったはずなのに年下になった気分で。
良い意味でっていうけど・・・・・・やっぱり悔しい。
そんな事を考えていると雄飛がずっと笑い続けているので、
自分が無意識に口を尖らせていた事に気がついて恥ずかしい思いに駆られた。
「・・・・・・じゃあちょっと待っててくれる?後少しで仕事が一段落するから、そしたら市井に行こう?」
「ごめんね、突然誘っちゃって大丈夫だった?」
「いいよ少しくらい。鳳綺とご飯食べに行くのも久しぶりだからね」
「・・・・・・・わかった。じゃあこの辺で待ってるね」
駆けていった雄飛に手を振り返し、鳳綺は中庭にある椅子に適当に腰掛けた。
ふ~っと息を吐き中庭の景色を軽く一望し、さっき雄飛が消えていった廊下を見つめる。
・・・・・・こうやって暇潰ししながら男の人を待つのって、変な感じがするな・・・・・・
足をブラブラさせながら、まだかな?と異性を待つ。
すぐには来ないだろうと思いつつも、近くで足音がすればその方向に目がいってしまう。
知らない土地だからかな?尚隆を待ってる時とは何か違うんだよね・・・・・
周りを見渡しても、誰も自分を知る人はいない、誰も自分が知る人はいない。
微かにわだかまる孤独感の中で、待つのは自分に柔らかく微笑んでくれる親友。
ただ友達を待っているだけなのに少し緊張しているのは、何でだろう?
「相変わらずだね」
「え、何が?」
州府の山を下り、州都の飲食店で食事を囲む2人。
鳳綺が美味しそうにご飯の味を噛みしめている時に、雄飛はふいに口を開いた。
「どこにいても鳳綺は人気者だなと思って」
「あ、さっきの事・・・・・・私が周りをキョロキョロ見てたから多分親切に声を掛けてくれたんだよ」
「・・・・・・・・・いや、それはないと思う・・・・・」
数時間前、雄飛が仕事を一気に終わらせ中庭に戻ると、そこには数人の官達が集まっていた。
囲うのは皆男達ばかりで、その中心には自分が探し求める鳳綺が呑気に笑っていた。
会話の内容から男達は明らかに誘っているのだけど、当の鳳綺はそんな下心なぞ知らずに受け答えしていた。
「・・・・・・・国府で声掛けられたりしない?」
「う~ん、前はあったけど最近はないなぁ・・・・」
「・・・・・・・そう・・・・」
確かに以前は玄英宮でもよく男の人に話し掛けられたけど、最近はそれはめっきりなくなった。
鳳綺は特に気にしていなかったが、それは鳳綺が王后だという噂が浸透したのと、
延王たる尚隆がもの凄い形相で睨みをきかせて回った故の功績であった。
雄飛はそれを聞いてひとまず安心感を募らせた。
・・・・・もっとも雄飛としては、あのたくさんの男がいた中で鳳綺は自分を見つけた時に、
花が咲いたような笑顔で駆け寄ってきてくれた事だけで満足だったが。
「州府では何をしてるの?」
「今は州司寇の下で色々な雑務をこなしてる感じだね。書類整理に追われる毎日だよ」
州司寇とは、国府で言えば秋官長の事だ。
雄飛はどうやら秋官に属するらしい。
「大変だよね書類整理って!私も毎日山積みで悲鳴上げてるよ」
「鳳綺は遂人だから俺よりも何倍も忙しいだろうね」
「え?あ・・・・うん・・・」
雄飛には自分が遂人の他に王后もやってるなんて伝えてなかった事を思い出した。
純粋に『遂人の仕事は大変』だと思っている雄飛に、何となく罪悪感を感じた。
「治朝にはもう慣れた?鳳綺みたいに若いと何かと大変だろ?」
「・・・・・・・・・うん・・・・前は色々あったけど、今は他の人とも仲良くやってるよ」
「それなら安心したよ。鳳綺は一度落ち込むとどん底まで沈み込む性格だからさ」
雄飛は、私が王后だという事を知らない。
私が普段生活している所は凌雲山の中腹にある治朝ではなく、頂上にある玄英宮だという事も。
「・・・あはは・・・・・バレてた?」
「鳳綺の事なら何でも知ってるよ、俺は」
5年前もどうしてか言えなかった。
これを伝えてしまったら、今のように屈託なく笑い合う事ができなくなる、どうしてかそんな気がする。
「・・・・・・・・・雄飛」
「何?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ううん、何でもない・・・・」
ただ大切な親友に大切な報告をするだけなのに、口が開きかけた所で止まってしまった。
鳳綺は心の中で首をブンブン振り、立ちこめてきた雲を消し去った。
・・・・・・あ~もう、やめやめ!せっかく雄飛と会えたんだから難しい事考えないで楽しもう!
「雄飛、これ食べたら違う所行かない?」
「・・・・・いいよ、どこに行きたい?」
「う~ん・・・・・やっぱり食後には甘いものかなっ」
一瞬鳳綺の顔が曇ったようだったが、何かを振り払うように笑うので雄飛は特に気にしないフリをした。
「じゃあ・・・・これ食べたら美味しい店案内してあげるよ」
「やった、ありがと雄飛」
「こんなのどうって事ないよ」
・・・・・・そうやって、鳳綺の無邪気な笑顔が見られるならね。
「?何か言った?」
「いいや、何も」
雄飛がにっこり笑うので鳳綺もほわっと顔を綻ばせた。
「・・・・・・・・・何か変な感じだよな」
「何が?」
次の店で団子を食べた後、2人は夕暮れの街を歩いていた。
そろそろ帰らなくては、という事で鳳綺の騎獣・琉綏の厩まで送っていく事にしたのだ。
「前みたいにさ、こうやってご飯食べたり街をぶらついたりしてるのは同じなのに、
今は互いに仕事があって、帰る場所も違うんだよな」
「そうだね・・・・なんだかんだ言ってお互いに夢叶えて官吏になって」
「・・・・・・・もう5年か」
「いつの間にかそんなに時間が過ぎてたんだね」
赤い太陽を背景に歩くと、何故かこんなにしんみりした会話になってしまう。
でも感慨深いのは確かだった。
3年間だったけど雄飛と過ごした時間はとてつもなく長かったような気がする。
一緒に深夜まで勉強したり、一緒に講義を受けたり、一緒にご飯食べたり・・・・・
私が笑うと雄飛も笑ってくれて、私が泣いていると色んな事をして慰めてくれた。
雄飛も心から信頼できる親友なんだ。
幼なじみっていう間柄は、雄飛との間柄と似たようなものなんだろうか?
・・・・・あの頃は傍にいるのが当たり前だった。
ふと立ち止まって鳳綺は雄飛を見上げた。
「環境とか仕事とか色々変わったけど・・・・・・・私達は変わらないよね?」
この心地よい関係は時間と共に色褪せてはほしくなかった。
「・・・・・・・・・・・変わらないよ。ずっとこんな感じの友達だよ」
「・・・・・・そうだね」
一瞬、その穏やかだけど奥に何かを秘めている瞳でじっと見つめられた。
「仙だから・・・・・・・ずっと、変わらないよ」
「・・・・・・・・・・うん・・・」
雄飛がそう言ってくれるのなら、私達は変わらないんだろう。
無意識に言葉数が少なくなっていく中、琉綏がいる厩に付いた。
「それじゃあ、またね」
「あぁ。苫珠によろしく言っておいて?」
「わかった。苫珠の事だから嫌味の一つや二つ言うぐらいだろうけど・・・」
「言えてる・・・・・今まで何回苫珠に怒鳴られた事か・・・・」
雄飛は数々の苫珠の形相を思い出して苦笑いになった。
鳳綺もつられて怒り顔の苫珠と縮こまった雄飛の姿を浮かべて笑みを漏らした。
「・・・・・雄飛、また遊びに来てもいい?」
「あぁ、いつでも来てよ」
琉綏の頭を撫で、軽やかにその背に乗って雄飛を見下ろす。
「でも鳳綺・・・・・・・仕事は大丈夫なのか?遂人は忙しいだろ?」
「あ~・・・・・・いいのいいの、雄飛に会う為なら頑張って仕事切り詰めるから!」
「はは・・・・・無理するなよ?」
最後になってやっと雄飛の嬉しそうな眼差しを見ることができた。
自然と私を見上げてる体勢だから、細めた目でそう見えたのかな?
「大丈夫だよっ。またすぐ来るからね!」
「すぐ?!・・・じ・・・じゃあ、それまでに鳳綺が好きそうな店をたくさん見つけておくよ」
「うん!また今度のんびりと案内してね。じゃあまたね~!」
「あぁ・・・・・・またね・・・・」
鳳綺を乗せた琉綏は静かに飛翔した。
みるみる小さくなっていく雄飛に、思いっきり手を振った。
「変わらないなぁ雄飛は・・・・・・」
私が先に仙になった分、外見はちょっとだけ変わっていたけど。
穏やかで優しい性格は3年間一緒にいた時と変わっていない。
またここに来よう。
ここには親友がいるんだから。
とても大切な大切なヒトがいるんだから。
私達に別れの挨拶は必要ないんだから。
「・・・・・・・・変わらないな、鳳綺は・・・・・・」
空高く舞い上がり、黒い馬は夕日を浴びて赤く染まっていく。
変わらず、あの白銀の瞳は眩しくて・・・・・
吸い込まれそうになるほど太陽の光を吸収させて輝いていた。
5年経っても変わらない、彼女は変わらない。
・・・・・・・・俺が愛した彼女のままだった。
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今さらながらに、雄飛君の一人称は「僕」でもいいと思っている作者。
だけどそしたら何か弱気なイメージが付く気がするから「俺」にしたんだよなぁ・・・・
雄飛君の内に秘めたものは全然弱気じゃない設定ですから・・・・(尚隆に掴みかかる程だから/苦笑)
さて、オリキャラパート2・尚隆の最大の恋敵(?)雄飛君の再登場ですvv
ずっとこの話が書きたかった~!
今まで一方的にアプローチをかけてきた男とは違い、雄飛は鳳綺の1番or2番の仲の良い友達です。
しかも尚隆とのいざこざがあった時代に一番傍にいてくれたのは雄飛ですから、
ヒロインの中の雄飛の位置は相当なもの。
さあ、強敵(?)の登場に尚隆は・・・・!?
てな感じでたぶんこの話は長く続きます。