14・愛はモノクロームの夢を見て






「ここへ来て、ついに不祥事とはな」
「申し訳ありません、全て私の責任です」
「君の責任ねぇ……」

上層部に呼び出されたリュシアは名だたる将軍達の追求を受けていた。
エリートで構成されたはずのダイアモンドフォースが面倒事ばかりを引き起こしているからだ。
要するに資金を費やしているのに成果を挙げられない事への小言だ。

「次々と人員が減り、金竜元隊長は船団を救ったものの無断出撃だった。
そしてついにはこの時期に第1小隊長が長期休暇をとるなどという始末」
「どう説明するつもりだ、アルヴァ大尉」

言葉で屈服されるつもりはなかった。
ガムリンの帰ってくる場所を確保する事と、金竜が築いたダイアモンドフォースを存続させる為、
リュシアは毅然とした態度で振る舞い続ける。
その為に軍に留まったとも言えるのだから。

「彼は先日バートン大佐を暴行した件について深く猛省しておりました。
連日の激戦、加えて慣れない隊長職に精神的に不安定な部分があると判断いたしましたので、
自身を見つめ直し、隊長としての責務を思い出してもらう為にも今は休養を薦めました」

ガムリンは辞めると言ったが、彼が本当に軍から離れられるとは到底思えなかった。
このまま戻ってこないのならそれでもいい、だがもし戻りたいと思った時に彼の席がなければ困る。
だからミリア市長とも相談し、しばらくは退役という処理をしないでいようと決めた。

「まあ、市長からもそのような要請が出ていたがなぁ」
「だがな、こうも第1小隊ばかり続いてはな。精鋭にかけた金はいくらだと思っている」
「いっその事ダイアモンドフォースは解体して新たな隊を設けて、不名誉な名を払拭させる案も出ている」

そんなのはダメだ。
それこそどれだけのパイロットがダイアモンドフォースを夢見て、命を賭けてきたというのか。

「ダイアモンドフォースはなくしません。自分が責任を持って部下を指導いたします」
「君にとっては悪い話ではないと思うんだがな」
「第2小隊などという付属ではなく、新部隊の隊長職に就けるのだぞ?」
「いいえ、私はあくまでもダイアモンドフォースの人間だと自負しております。
第1小隊の2人も不安でしょうし、私が最後まで導く所存です」

(そう、ガムリンが戻ってくるまでは……ダイアモンドフォースを守る)

「……今度何かあればわかっているな、大尉」
「はい」

重苦しい部屋から一歩出るとリュシアは肩の力を抜いた。
だが息をつく間もなく、第1小隊のガムリンの部下であるディックとモーリーが泣きついてきた。

「大尉!ガムリン隊長が辞めてしまうなんて、俺達はどうなるんですか!」
「2人だけでは任務遂行などできません!」
「落ち着きなさい。ガムリンが帰ってくるかはわからないけど、それまでは私が面倒を見る」

ガムリンを慕っていた2人はかなり動揺していた。
彼らを安心させる為にも自分がしっかりしなければ、リュシアは眼光を鋭くさせた。

「第1小隊にメンバーは補充されない。しばらくは5人で行動する事が認められた」
「で、ですが……自分達は3機での訓練しか受けておりません!」
「5機のフォーメーションなんて……!」

5機編成はリュシアにも経験がない。
だが、ガムリンの場所を保つ為にはこの方法しかなかった。

「簡単な事よ、私の後ろに付いていればいい」

もう本当に、リュシアしかいないのだ。

「何も心配いらない。私達は選ばれたダイアモンドフォースでしょう?
それぐらいの適応力は持っている、何の為に訓練してきたと思っているの」
「ですが、大尉の後ろにはもうアッシュとヤクモが……!」
「2人も含め、連携に関しては後日行われるジャミング・バーズの演習で体に叩き込んで貰う」
「は、はい……」
「……私では、役不足?」
「い、いえ、そんな事は!」

不安が残る2人に少し意地悪な笑みで首を傾げれば、若い部下達は慌てて顔を上げる。
冗談だと言いながら真剣な口調に戻れば、彼らは少しは気持ちが落ち着いたのか、精悍な顔付きに変わっていた。

「大丈夫、私が貴方達を守る。だから自信を持ちなさい」
「……はい、よろしくお願いしますリュシア大尉!」

守らなければ、隊も部下も。
リュシアはさらに決意を自身に叩き込んだ。











彼がいなくてもマクロス7ではFIRE BOMBERの歌が常時流れている。
それが何だか余計に寂しさを感じさせていた。

「ジャミング・バーズか……」

FIRE BOMBERのサウンド・フォースと同じ目的で結成された、民間の部隊。
バサラのように歌で敵をひるませる事が目的だと聞いたが。

(歌を武器に……それは、バサラの求めているものと違う)

そんな複雑な心境でジャミング・バーズのメンバーを見つめていた時。
ふいに近づいてきた足音に振り返り、リュシアは目を見開いた。

リュシア
「っ……レナード……!」

屈強な体を持つ軍人の中では少しだけ細身で、だけど力強さを秘めた優しげな眼差し。
彼――レナード・クライブとは士官学校時代からの友人であり気の許せる仲間であり、
そして少し前までは恋人だった。

「久しぶり」
「……いつ、バトル7に?」
「ジャミング・バーズ結成に伴っての異動さ。しばらくは彼らの育成に追われるだろうね」
「そう……」

彼に対して別れを切り出したのは自分だ。

年齢も入隊時期も近かった彼とは軍内でも珍しく打ち解け合った友人で、そのまま恋人へ発展した。
優しくて気遣いも出来る、その上将来も有望で非の打ち所がない程の人物。
憧れている女性も多く、当時はかなり有名なカップルだったらしいとアッシュから聞いた。

嫌いになる部分なんてない、むしろ今でも好きだと思う。
だけど付き合っていくうちに、無意識に自分は彼に対しても気を張ってしまっていた。
包容力のある彼の事だ、別に何も隠す事はないのだろうけど、酷く疲れている自分に気付いた。
どうしてか、気が休まらなかったのだ。

彼の前では良い女でいよう、褒められるような軍人でいようと気負ってしまったのかも知れない。
その答えに気付いたのはつい最近だったが。

「元気そうで、よかった……」
「まあな。リュシアこそ、この激戦でよく生き残れたもんだ。
それもそうか、あのマクシミリアン艦長が直々に指導したくらいだもんな」
「うん……」

あまりレナードを直視できなくて、ラウンジに移動した後も両手に包んだカップを見下ろしていた。
だけど彼は以前と変わりなく接してくれる、それがリュシアは嬉しかった。

「レナードこそ、ジャミング・バーズの研究してるなんて思わなかった」
「言わなかったか?俺は元々ミンメイ伝説を信じてる人間さ。
だから研究実験艦にいながらサウンドエナジーシステムに関わってきた」
「そっか……」
「まあ、"音楽戦闘部隊"ってのは気に入らないけどさ」

ジャミング・バーズを監修しているのはバートンだ。
つまりレナードの直属の上官という事になるが、
彼の表情を見ている限り、共感できない部分が少なからずあるのだろう。
ガムリンの恨みもあいまって、訓練後にも散々嫌味を言われた事を思い出してリュシアは苦笑した。

「……それで、少しだけ元気がない理由は話してくれるのか?」
「え……?」

顔を上げると、やはりレナードの包み込むような笑みがあった。
彼はいつも、こうやってリュシアが胸の内に秘めているものも引き出そうとする。
それが強制的にではないから、つられるように何度も吐き出してきた。

「別に遠慮する事ないだろ?何があったって俺とリュシアは戦友じゃないか」
「レナード……」

勝手に別れを切り出してしまったのに、彼は許してくれている。
それだけでなく、恋人の時以上にリュシアを受け入れようとしてくれている。
何て器の大きい人だろうか、感謝と謝罪ばかりが胸を占めた。

「ちょっとね……最近、どうして戦うのかわからなくなってきて……」

少しずつ、染み出すように膿が溢れていく。

「私の役目は敵を倒す事だけど、それが本当に正しいのかなって……」

殺さなければ自分が殺される、だから守る為に戦ってきた。
だけど……殺さなくて良い方法というのが、本当はあるのかもしれなくて。

「現に、プロトデビルンは歌に驚いていつも逃げているし、歌の前に私達は何もできていない」

敵を退けているのは、彼は本意ではないかもしれないけれどバサラの歌のおかげだ。
歌があるから自分達は今まで生き延びて来れたのではないだろうか。

「敵兵はマクロス5の人間で……所詮私達は彼らを止めるか、終わらせてあげる事しかできない」

そしてバサラは、救う事ができる。

「熱気バサラ、か……俺も不思議だよ、彼の歌は」
「………」
「どうやら彼の歌に感化された人間が増えてきたって事だよな。俺も含めて」
「レナードも?」
「まあな」

ふ、と微笑むとレナードは「難しいな」と呟いてコーヒーを口に含んだ。
確かに、今リュシアが言っている事は"軍人"としてあるまじき事なのだから。

「個人的な思想など関係なく組織の一部として無心に命令に従うのが軍だ。
軍人でいる以上、上からの命令は絶対だ」
「うん……」
リュシア、君は何の為にバルキリーに乗る?何の為に相手に武器を向ける?」
「…………」

そんなのは決まっている。
殺す為に戦っている訳じゃないのだから。

「だったらそれでいいんじゃないかな、俺はそう思うけど」
「え……?」
「軍人になれば殺さなければいけない、だけど軍人じゃなかったら守れないものもある」
「…………」
「戦わずに戦争が終わるのならそんな素晴らしい事はないけど、世の中そんなに甘くはないさ。
その点で言うなら歌は確かに希望かもしれないね」
「希望……」
「そう。俺達が相手を殺さずに済む、ね」


――彼の歌は希望だ、だけど彼はそんなもの望んではいないだろう。

歌いたい時に歌う。そう……ただ歌いたいだけなのだ、彼は。


リュシア

ラウンジを出たところでレナードは再び口を開いた。

「あまり思い詰めない方がいい。もっと肩の力を抜いてもいいと思うぞ」
「……うん」

彼はきっと気付いている、自分がダイアモンドフォースとしての重圧に苦しんでいる事に。

「……金竜隊長にも、艦長にも同じ事言われた。私そんなに無理してるように見える?」
「見えるから言ってるんだ」

これが常だから無理をしているつもりはない、こうする以外どうすればいいかもわからない。

(軍人でいる事……それがもう限界だという事かな……)

「それと……俺の事気にしなくて良いから。
友人としてまたいつでも酒でもコーヒーでも付き合うから、誘ってくれ。ま、俺も何かあれば誘うから」
「……ありがと」

どうして彼ではダメだったのだろう。
今でもとても好きだと言える、もしかしたら愛していたかもしれないのに。
どうして自分は、彼には甘えられなかったのだろう。

あんなにも自分を愛してくれた人を、どうして手放してしまったのだろう。

自室に戻るとリュシアは疲れたようにベッドに倒れ込んだ。
慣れたベッドの柔らかさすら違和感を覚え、そこには音すら存在しない。

「……バサラ……」

レナードに別れを告げ、罪悪感に駆られていたあの頃。

軍人としてしか生きる術が見つからなくて、過酷な訓練に打ち込んだ。
別れた噂もあいまって舐められたくないと、そして隊長として責務を果たそうと一層上官らしく振る舞った。
心を許せる相手ももういなくて、気ばかり張り続けていた。

初めて彼の歌を聴いたのはそんな時だったなと、急に思い出した。











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タイトル配布元――ジャベリン


オリキャラ登場、元彼です。

ポンポン話が進みますので、付いてきてくださいね(笑)