修復の為、惑星ラクスに降り立った船団はしばらく動けそうにない。

先の戦いで失った物は多い。

それでも何人死のうとも、たとえ上官が死のうとも、
残された人間には怒濤のような日々が押し寄せてくる。

そして必死に生きなくてはならないのだ―――






11・わがままだけでその名を呼びたい






「ただいま戻りました」
「ご苦労様、2人とも」

シティ7及び船外のパトロールを終えたアッシュとヤクモが敬礼をする。
報告書に目を通しながらリュシアはそれに答えた。

「どう?外の様子は」
「良いですねぇ自然は。何も気にせずに呼吸できるってのは素晴らしい事ですよ」
「……周辺の脅威について聞いているのだけど」

アッシュの感想は聞いていない。
惑星の気候が良い事は理解したが、外敵やら予想外の事象などシティの影響になるような事、
つまりは純粋に勤務報告をして欲しかった。

冗談だとわかってはいるので怒りはしないが、
リュシアよりも頭を抱えるヤクモに睨まれたアッシュはようやく報告を始めた。

突然現れては攻めてくる敵が来ない内は案外に平和な日々だが、
それでも戦闘時には甚大な被害が出てしまう。
その差にいつも慣れないとリュシアは思う。

「そういえば今FIRE BOMBERのライブがやってますよ」
「……そう」
「でも何故か熱気バサラが歌わないんですよねぇ」
「え……?」

FIRE BOMBERの名前に興味のない振りをしたものの、
その続きを聞いてリュシアは顔を上げざるを得なかった。

だがアッシュが此方を見透かすような目をしているものだから、逃げるように再び視線をデスクに落とした。

「代わりにミレーヌちゃんが歌ってますけど、バサラはサイドでギター弾くだけで。
何でかはよくわからないですけど」
「…………」
「それと研究班の奴等に聞いたんですけど、何かまた大がかりな実験してるみたいですよ。
歌をエネルギーに変換させて利用する為のシステムだとか何とか」
「エネルギーにしてどうするんだ?」
「さあ……でもサウンドフォースのプロジェクトの一部らしい」

会話を続ける部下2人の話を聞き流しながらリュシアは思惑を巡らせる。
どうしてバサラが歌わないのか、それが気になって仕方がない。

(どうして?3度の飯より好きな歌なのに……?)

上の空になったリュシアにアッシュは追い打ちを掛ける。

「気になりますか、隊長?」
「…………」

彼にバサラとの関係を言った覚えはない。
呑気にしていながらも案外に聡いアッシュは、恐らく何か勘付いているのだろう。

「もしよかったら仕事代わりますよ」
「何を馬鹿な事言ってるの」
「そうだアッシュ、隊長の仕事をお前ができるか」
「だけどさヤクモ、ガムリンはちゃっかりライブ観に行ってるんだぞ。隊長だって少しは休みたいだろー?」

ここにはいないガムリンは律儀にミレーヌの応援に行ったのだろう。
そういう事が素直にできないリュシアは上官らしく微笑んだだけだった。

「ありがとう。だけど私は休みたい訳じゃ―――」

言葉を遮るように、非常警報があたりに鳴り響く。


飛来した敵は今までと違い、化け物と形容できるような巨大な生命体。

またしても、誰かが死んでいく戦闘が始まる。











「バサラ……声が出ないの!?」

レイから伝えられた事情にリュシアは悲痛な叫びを上げた。
それがどんなに彼にとって辛い事なのかわかっているだけに、リュシアの胸までも痛くなる。

生命体の攻撃を避けながら通信を開くと、バサラは苦しそうに顔を反らした。

(そんな……バサラが歌えないなんて)

何とかしてあげたい、だけど自分にできる事なんてない。
リュシアには、戦う事しかできない。

リュシア大尉、サウンドフォースを守りましょう!」
「え、ええ……わかってる」

動揺しながらも、ガムリンの一言でリュシアは機体を加速させた。
アッシュの言う"歌をエネルギーに変換させるシステム"を装備したミレーヌ機が先行していく。

未知なる生命体は一艦隊を沈める程の威力を持った攻撃をしてくる。
彼女を1人にさせる訳にはいかない。

だが接近して歌うミレーヌ機を、生命体はいとも簡単に捕まえてしまった。

「ミレーヌちゃん!」

喰われそうになったミレーヌ機を庇ったのはバサラだった。
彼はバルキリーの腕力で潰されそうになるのを防ぎながら、必死で歌っていた。

声がでないのに、それでも歌いたいのだと言わんばかりに。

(バサラ……!)


結局、バサラの声を甦らせたのはミレーヌだった。
彼女から発せられたオーラのような光がバサラを包み込み、それによって再び歌声が空に響き渡った。

2人の可視化された歌のエネルギーが絡み合い、生命体は逃げるように飛び去っていった。
歌を聴いて逃げる、まるで昔のゼントラーディのようだとも思ったが、
それよりもリュシアは仲良く見つめ合うバサラとミレーヌばかり気にしていた。

(あの2人には絆がある……私には入り込む隙なんてない)

ガムリンも同じように感じたのだろう、ミレーヌを見つめる背中が寂しそうだった。
それが自分と重なるようで、リュシアは目を逸らした。


――バサラの行動に一々嫉妬してる自分は、醜い。



バサラの赤いオーラが、炎のように燃え上がっていた。











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タイトル配布元――ジャベリン


謎な敵ばかり。