「以上が今回の任務だ」


コムイが地図を指さしながらそう締めくくった。


アリィン、今回が初任務だけど……そんなに気を張らなくても大丈夫だからね」
「わかった」

数日前からコムイの変態レベルが薄まったと思ってたけど、どうやらこういう訳らしい。
イノセンスを取りに行くだけという私の初任務に、リナリーが一緒に行く事になった。

「リナリー怪我しちゃダメだよ!?ハンカチ持った?ハナガミ持った?」
「そ、そんな……ハナガミなんかいらないよ!」

必要以上にリナリーを心配するコムイを横目で見るようにして、アリィンはただ笑うしかできなかった。


あれほどまで必死で助けようとしてた妹だからなぁ……
でも私とリナリーの扱いにちょっと格差がありすぎないか?と心でつっこむ。

……まぁ、別れた女を心配する男もどうかと思うし……

アリィンはとりあえずそう自己完結させてリナリーの手を握った。

「行こうリナリー。こんなの相手にしてたら最後にはそれこそ付いて来かねないから」
「あ、はい……」

強引にリナリーを引っ張ると、後ろで何やら叫び声をあげる科学班室長の姿が。
本当に付いてきそうになって、リーバーくん達が必死で止めている。


そんなに妹が大事か……


「……アリィン、リナリー」

急に素の声に戻ったコムイを2人は同時に振り返る。
穏やかに微笑むコムイがそこにいた。

「行ってらっしゃい」
「……行ってきます」

アリィンは笑顔で返した。
ちゃんと私の名前も呼んでくれた事だけで嬉しいなんて、まだ未練があるのかもしれない。

……まだ私はその眼差しに弱いんだって思い知らされた。






3・Behavior






アリィンさんってインドアな人だと思ってたけど、違うんですね」
「え、何で?」
「だって女性なのに戦えるじゃないですか」

無事にイノセンスを入手し、帰りの列車の中でリナリーはふと思ってた事を口にした。
アリィンのイノセンスは壁に立てかけた棍・『秋桜』。
普段は普通の黒い棍だけど、イノセンスが発動すると両端から光の剣が現れる。

「それを言ったらリナリーちゃんだって戦ってるじゃない」
「そうですけど……武器を持ってるってのが凄く格好いいですよ~」

アリィンの父親が武術の師範だったため、アリィンは小さな頃から武術を習っていた。
こんな時代にそれが役に立つはずもない、そう思っていたのに人生とはわからないものである。

「……女らしくないよね」
「そんな事ないですよ~!アリィンさん凄く綺麗だし、背も高いし!」
「……ありがとう」

背が高い事はあまり好きではなかった。
だってやっぱり『女の子』は背が低いのが普通で。
彼女が自分より大きいってのは、男としても複雑な気分だと思うから。

だけど、一緒に生活していたあの人は自分より随分長身で。
そんなコンプレックスは気にしなくてよかった。
……というより、背が大きい方があの人と釣り合ってる気がして嬉しかった。

別れてから結局コンプレックスは戻ってしまったけど。
今は、そんなに感じない。

「でも、このミニスカートはどうにかしてほしい……」

アリィンは自分のスカートの裾を引っ張った。
自分もいい歳だし、ミニスカートなんて柄じゃない。
だけど何故か周囲の強い推薦に押し切られ、膝小僧が見えるくらいの位置で我慢した。
その代わり、男性がよくやってるように上着を足首まで隠れるコート風にしてもらったので、
その足は正面からしか拝めなくなっている。

「そんな……もっと短くてもよかったのに……」
「私はそんな若くないから……」
「歳とか関係ないですよ~!」


……それはリナリーちゃんが若いからそう言えるんだよ……


「あ、そういえば……」

リナリーはふと何かを思いだしたように首を捻った。

「いつもは一番にミニスカートを推奨する兄さんが、今回はノーコメントだったんです。
珍しい事もあるんですね」
「………歳がいってるからじゃない?」

アリィンはこめかみに筋を浮かべて引きつった笑顔をした。
『歳』を連呼するアリィンのイヤな雰囲気を読み取り、リナリーは慌てて言い訳を考えた。

「え、えと……たぶんアリィンさんが綺麗だから足を出すことに抵抗したとか!?」
「それなら出させるでしょう、コムイは」
「じゃ、じゃあ……アリィンさんが怒るのが怖かったとか!?」
「……私、そんなに怖い?」
「え!?あ、ち、違います!え、えと………」
「……やっぱり歳か……」


そんなに三十路前の生足は見たくないか。


「…………」
「ど、どうかしたんですか?」
「う、ううん、大丈夫……」


『三十路』という単語を自分で使ってショック受けてるなんて言える訳がない。


「……コムイだってもうおじさんのクセに」
「……あの、アリィンさんとコムイ兄さんっていつ頃から知り合いだったんですか?
いつも凄く仲が良いから……」

アリィンはピクッと微かに肩を揺らした。

「……どんなこんなも、前からこんな感じよ」


それでも動揺した素振りを見せる事なく、アリィンは笑顔でその場を乗り切った。











「おかえりリナリー!!!」

可愛いリナリーの姿を見つけて、コムイは猛ダッシュで抱き付いた。

「怪我はない!?お腹は痛くない!?」
「だ、大丈夫だってば兄さん……!」

必要以上にスキンシップをとる。
ふと目線だけあげると、アリィンは何とも言えない顔で苦笑いをしていた。

「はい、イノセンス」
「ご苦労様」

アリィンからイノセンスが入ったケースを受け取る。
アリィンには顔色も全く変えないで返答をする。


……よかった、アリィンが無事に帰ってきた。


安堵でほっと胸を撫で下ろす。

「どうだった、初任務は?」
「特に大変だった事はなかったよ」


知らないよね、僕がここでどれだけ君の心配をしていたか。


「これでアリィンも晴れて一人前のエクソシストだ」


……心配で心配で堪らなくても、僕は平気で君に嘘をつく。

心配したら、僕の気持ちに気付かれてしまいそうで。

気付かれてはいけない。
僕は、もう彼女を愛する事はできないのだから。

僕に未練がある、それは知られてはいけないから。
そんなもの君には迷惑以外何者でもないだろうから。

僕がアリィンを愛してた。
それは数年前の、もうずっと昔の過去の事なんだから……


「おかえり、アリィン
「……ただいま」

僕は科学班室長として、君はエクソシストとして。



……どれだけ愛していても、それは君だけには悟られたくない。











Back Top Next



どこまでが子供で、どこからが大人なのか未だにわかりません。
自分が「ああ、嫌な大人になったなぁ」と時々思う事を元にできたヒロインなので、
たぶん特殊な性格だと思います。

そしてコムイ。
異常に変態度を増してますが、その辺はギャグとして受け取っていただければ……(苦笑)
愛も連呼しすぎで恥ずかしいです。
でももう「好き」という次元じゃないからいいかなと思ってます。