いつでも行ける。

俺とお前が一緒にいる限り。







君と共に ~奏~5








「やぁ風漢、昨日はよく眠れたかい?」

朝一番、宿を出ると利広のニッコリスマイルが現れた。

「そうだな、それはもうぐっすり」

尚隆は不機嫌な顔をしつつ、負けないように笑顔で言い返した。
後ろで鳳綺が腰を押さえながらこっちを睨み付けている事には、気付かないフリをした。

「何しに来た」
「つれないなぁ、私が奏まで連れてきたのに」

利広は眉だけ顰めた。

「私の目的はもう済んだから、後は好きなようにするといいよ、って言いに来ただけだから」
「え?もう行っちゃうんですか?」

元気が戻ったらしい鳳綺が尋ねた。

「これでも忙しい身だからね。じゃあまたね、鳳綺。ついでに風漢も」
「ついでには余計だ」

利広は白い虎に跨り、わずかに飛翔した。

「それじゃあ。またいつか会うかもしれないね」


相変わらずのニッコリスマイルで利広はすぐさま視界から消えた。

余りにもあっさりな別れに、2人は茫然と店先で突っ立っていた。


「…………一体何なんだ、あいつは」
「さぁ…………でも利広さんとはまたすぐ何処かで会えるような気がする」

鳳綺が純粋な笑顔でそう言うものだから、尚隆は一瞬眉を潜めた。
だが間もなく溜息を付いて鳳綺の頭を優しく撫でた。


「…………そうだな」



この先、嫌でも会う事になるよね?
だって、私達には無限の時が用意されているのだから。











「………………で……何で俺はこんな事をやっているんだ……?」


尚隆は前を歩く鳳綺に問いた。
尚隆の両手にはたくさんの荷物、そして抱えるようにして持った箱や籠で塔のようになっている。

つまりは荷物持ち。

フラフラになりながらも頑張って後を付いていく尚隆。


当の鳳綺は荷物持ちのぼやきを無視し、手当たりしだいに通りの出店を漁っていた。

「何言ってるのよ。雁を出てからもう6日は経ってるのよ?いい加減帰らないと六太が失道するじゃない」


すごく言いにくいんだけど…………六太を置いてきた。
さすがにちょっと心配になってきたよ。
だって…………絶対恐ろしい事態になってると思うから。


「…………この大量の荷物はどうするんだ」
「これはみんなへのお土産。これぐらいしないと…………殺されるかも」

変な想像をして鳳綺は身震いをした。


朱衡と苫珠からの黒々オーラだけは嫌です。


「少しぐらいは機嫌とっておかないとね」


鳳綺はキョロキョロして商品を覗き込んだ。

「えっと、これが苫珠へのお土産で……朱衡様と帷湍様にも……成笙様にも買ってあげると喜ばれるかも……
帷湍様にはお茶の葉を買おうかな?あ、でも帷湍様『そんなにジジイじゃない』とかって怒りそうだしなぁ~……」

等とブツブツ言いながら手を進めた。

「……………………鳳綺
「う~ん……やっぱりこっちの方が朱衡様に似合うかな?でも朱衡様ならこんなの持ってそうだしなぁ……」
鳳綺!」
「な~にってば、尚隆」

不機嫌な尚隆の方をようやく振り向いた。

「………………俺達は観光に来たのではないか?」
「そんな事言ったって~帰るのにも5日かかるんだよ?」
「何しに来たんだ……」
「私は明嬉さん達に会えたから実りはあったよ?尚隆は………………
色んな方々と楽しめたからよかったんじゃないですか、風漢様?」

思い出したように黒いオーラをまき散らしながら睨め付けられる。
やばいと思い尚隆は咳払いをして話を変えた。

「あ~………………こんなに買うのか?」
「取りあえず珍しいものを手当たり次第に。六太にもあげたら絶対喜んでくれるだろうからね」
「……………………」


尚隆的には、鳳綺が他の男の名前を連呼している事が気にくわない。


「…………俺にはないのか、土産?」
「何言ってるの。一緒に行った人が自分にお土産買ってどうするの?」
「…………そうだな」
「それに…………貴方様にはもう『素敵な思い出』というお土産があるんじゃないですか?」
「……………………」



やばい。
結構しつこいらしい。



尚隆には初めて鳳綺の怖さを体験した旅となった。

「…………はぁ」

悲しみの溜息を地面に吐いた。



……………………これも「実り」と言うのだろうか……?









「でも、ま…………こういうのも悪くないかもな」


尚隆は呟くように言った。
その表情はとても穏やかで、目の前で元気に動き回る鳳綺を眺めていた。


「?何か言った?」
「いや、何も言ってないさ……」

不思議な顔をしながら鳳綺は再び店に目線をやった。

滑らかな黒髪は、黒真珠のように鈍く輝き、
大きな瞳は、太陽の光を反射させる白銀の色で、
そして、無邪気に笑うその顔は、何よりも大事な宝物で。



目を伏せて、尚隆は微笑んだ。



「思えば…………色々あったな」



初めて会ったのは虚海の浜。
幼い瞳は白銀。

そして、次は関弓。
あの頃は、まだ親心と遊び心しかなかった。


記憶を巡らせばいくらでも思い出せる鳳綺の表情。


いつからか、俺もあの白銀に魅入られていた。


泣き腫らした顔。
涙を浮かべた顔。
泣かせた顔。
泣き叫ぶ顔。

今こんなに穏やかな気持ちになっているのが嘘のように、鳳綺は泣いていた。
辛い想いばかりさせていた。




「…………すまなかったな、鳳綺……」



「?また何か言った?」
「いいや……何も言ってない……」




この両手に抱えた荷物の分は、俺は鳳綺を幸せにしたのだろうか……?




「…………鳳綺、帰るか。俺達の家に……」
「……?…………うん、帰ろっか」


鳳綺は柔らかく答えた。




永遠という時間は俺達を縛り付ける。

それでも…………幸せであれ、鳳綺………………















「…………で?」
「で、その…………これがお土産でございます…………」


あれからさらに5日かけて、尚隆と鳳綺は雁に戻った。

出迎えたのは、六太の涙目と、朱衡の貼り付けた笑顔と、帷湍の真っ赤な顔と、苫珠の仁王立ち等々であった。
最も恐ろしい朱衡は、鳳綺に黒い笑顔だけして、尚隆の首根っこを掴んで行ってしまった。
どうやら、鳳綺の方は苫珠に一任するらしい。
…………尚隆に手を合わせつつ今に至る。


「ふ~ん…………土産ねぇ……」

苫珠は土産の数々をバシバシと叩いた。

「はい……で、その…………無断で出て行った事を許して頂きたく…………」

ヘコヘコと頭を下げるけど、苫珠は冷たい目でこっちを睨んでた。

「…………んの」
「え…………?」

「…………こんなんで許せるかーーーーーー!!!!」
「ひいぃ!ごめんなさ~い!」

鳳綺は半分涙目になりながら叱られた犬のように縮み上がった。

「あれほど無断で行くなって言ったでしょ!」
「ごめんなさい……!」
「誰に迷惑かけるかわかってんでしょ!」
「うぅ……仰る通りです……」
「しかも奏の清漢宮に行った!?んなみすぼらしい格好で!?」
「……みすぼらしいって…………」
「一国の王后がそんなんでいい訳ないでしょ!?女御の面目丸つぶれじゃないの!!」
「はい……ごもっともで…………」

苫珠は溜息をついた。
顔を上げると、ちょっと落ち着いたらしい顔をしていた。

「…………出かけるなら一言言っておきなさいよ」
「…………はい……」

ぷいっと顔を逸らした後、苫珠は土産の山を検分しだした。
もう一度鳳綺を見たときは、さっきまでの鬼のような顔はどこにもなかった。

「……どれよ、私の土産」


その台詞で嬉しくなるなんて、私も結構現金な性格かもしれないな。


「…………あ、うん!確かこっちに…………」


ゴソゴソと箱を取り出し苫珠に渡し、様子を見ながらその他の土産を仕分けする。
苫珠は座り込んでそれを眺めた。


「で、どうだったのよ清漢宮は?」
「うん…………宗后妃に会ってきた」
「その格好で!?…………ま、いいわ、続けて」
「とてもいい人でね、王后って言うより『お母さん』が似合う、優しい人だった」
「ふ~ん…………」

苫珠は興味ないフリしててもちゃんと聞いてくれるから、構わず話を続けた。

「利広さ……卓朗君も文公主も歓迎してくれてね。また来てね、って言ってくれた」
「ふ~ん、よかったじゃないの」

苫珠は土産に目線をやったまま。

「…………あんたにとって良い先輩が出来てよかったんじゃない?
鳳綺なら宗后妃の事を理解できると思うし、宗后妃ならあんたの事を理解してくれると思うよ」
「うん、そうだね…………」


ふと、鳳綺は苫珠を見つめた。


「…………苫珠も私の事理解してくれてるよね…………ありがと」
「なっ……!?」

笑顔でそう言うと、苫珠は一瞬にして耳まで真っ赤にさせた。

「あはは、顔が赤いよ?」
「……っ……!だ…………誰があんたなんか理解できるかーーーー!!」


素直じゃない私の親友は、そう叫んで土産の箱を漁りだした。

鳳綺はまた笑った。







バァン!!!!






と、和んでいる時に後宮の扉が勢いよく開け放たれた。


鳳綺!!」
「な……どうしたの尚隆?」
「ちょっ…………かくまらせてくれ!」

尚隆は息を切らせながら奥の部屋に入ろうとした。




バァン!!




と、今度は朱衡が扉を蹴破った。


「逃がしませんよ、主上v」

その笑顔には全く暖かさが感じられず、背後のどす黒いオーラが迫ってくるようだった。
今この場で平静なのは苫珠だけだろう。

「はあっ……っ……待て!話せばわかる!」
「解りませんし解りたくもありませんv」
「悪かったって言ってるだろ!頼むからそれだけは……!!」
「ダメですvv」

明らかに狼狽している尚隆と、めちゃくちゃ笑顔の朱衡。
いつもとは違い逃げ腰ですらあった。


「「(一体何をされたんだろう……?)」」

鳳綺と苫珠の疑問は一致していた。

鳳綺!見てないで助けろ!」
「助けろったって…………」

鳳綺が尚隆から視線を逸らすと、朱衡のもの凄いオーラと目があった。
一瞬泣き出しそうになったけど、朱衡の顔で何かを思い付いてパッと花を咲かせた。

「あ、そうだった!」

仕分けをしてあった山からある包みを持ってきて、朱衡の前に差し出した。

「はい朱衡様!奏のお土産です!」

鳳綺は子供のような無邪気な顔でほわっと笑った。
桜色の頬が何とも可愛らしかった。


恐ろしい雰囲気をものともしない天然ともとれる言動に、尚隆と苫珠は内心で「鳳綺最強……」等と突っ込んでいた。
反対に朱衡はさっきまでのどす黒さからコロッと変えて優しく微笑んで、包みを受け取った。


「いつもありがとうございます、后妃」
「いいえ!朱衡様にはいつも迷惑をお掛けしてますから」
「いいんですよ、貴方は。それで奏はどうでした?」
「はい!とても良い所だったし、清漢宮の皆さんもとても優しかったです」
「それは良い体験をなされましたね」
「えぇ、勉強になりました!」


「…………って、ちょっと待て!!」


幾ばくか不機嫌な尚隆が止まらない会話に突っ込んだ。


「…………何ですか、主上?」

尚隆を向いた時には再び黒くなっていた。

「何故俺だけに黒い!」
「主上と后妃は別ですからv」
「…………っ!」
「ごめんなさい朱衡様、私が無理言って付いてきてもらったんです…………許してもらえませんか……?」
「えぇ、貴方がそう言うなら」
「あ、お前っ!」

尚隆はコロリと態度を変える朱衡に食ってかかった。
しかし笑顔のまま首根っこを掴まれた。

「では、主上。貴方の執務室でじっくり話す事にしましょう」
「…………!」

ダラダラ汗を流し引きずられる尚隆。

「では失礼します。お土産ありがとうございました、后妃」
「あ、はい!」


にっこり笑顔の朱衡とその他約一名は扉の向こうに消えた。


「朱衡!俺の女に色目使うな!」
「はいはい。そういう事は執務をなさってから仰って下さい」
「……っ…お前な…………良い度胸ではないか!」



そんな会話が聞こえたり聞こえなかったり。





「…………………………」
「…………………………」

呆気にとられているのは女2人。

「…………主上ってあんな情けなかったっけ?」
「あはは…………」
「でも…………あんな主上もいいのかもね」

苦笑いを浮かべていると、苫珠はさらに言葉を続けた。

「あんなにうち解けられるのは、やっぱり互いに理解しあってるからなんだろうね」
「苫珠…………」

今日は真面目発言多めだから、思わず茫然と見ていた。
その視線を感じたのか苫珠は顔を真っ赤にして慌てだした。

「だ、だからって、あんたなんか理解したくないからね!!」
「そんなぁ~苫珠ぅ……」
「寄るな!くっつくなぁ!」



互いに理解し合える、それがとても素晴らしい事に思えた。



「また行きたいなぁ、奏に」
「…………行けばいいじゃない」



私達には無限の時がある。
その分、私達は分かり合えるし理解し合える。

そして、出会いがある。









「今度はどこに行こうかなぁ~?」
「………………しばらくは仕事しろよ」









何処にだって行ける。

私と…………尚隆が一緒にいる限り。





出会いも別れも、幸せも。

全ては…………君と共に。










<了>









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はぁ~~!やっと終わった!
いい加減この尻すぼみ小説しか書けない脳を何とかしたい。

朱衡夢……?
尚隆がヘタレ?
何てツッコミは胸に秘めて(おい……/汗)
尚隆とヒロインで態度を変える朱衡とか、久しぶりにギャグ尚隆が書きたかったんですう~~!(号泣)

…………あと、両手に荷物を抱えた尚隆もv
ほのぼの買い物に萌え。

さて、ギャグ&ほのぼの書いたから、次の話は多分真面目になります!