「はい~鳳綺の負け!」
「え?!もう一回!」
「駄目だよ。何回負けたと思ってんの」
「う・・・・・・・・・」
「はい~罰ゲームね~!」
「ろ、六太~・・・・!」







口紅の行方








事の発端は延台輔・六太。

いつものように饅頭を調達して玄英宮に戻ると、こんな会話が聞こえてきた。


「なぁ、后妃に直接お会いした事あるか?」
「いや、あるわけないだろ」

男達が群がって談話(?)をしていた。
話題が話題だけに、六太は気づかれないように聞き耳を立てた。

「噂じゃ凄い美人らしいぞ?」
「それがな・・・・・聞いた話なんだけど・・・・」
「なんだよ。もったいぶるなよ」
「あんまり・・・・・・・美人じゃないらしい」
「「「えーーーーーー?!」」」

この中に六太の心の叫びも入っていた。

「それに・・・・・・・みすぼらしい格好も好みらしいんだ」
「そんなぁ~・・・俺絶対偉くなって后妃にお目に掛かろうと思ってたのにぃーーー!」
「でも、主上がそんな人お選びになるか?」
「さぁ・・・・・・あんがい主上も好みが変わってたり・・・・・」
「「う~ん・・・・・・・・・・・・・」」





「(な、何だとーーーー?!鳳綺が美人じゃないだとーーーーー?!)」

六太は饅頭を取りこぼしそうな勢いでガタガタ怒りに震えた。

「(聞き捨てならん!!鳳綺は誰よりも美人なのにっっ!!!)」


六太はある場所へと一目散に駆けた。



「(ムカつく!俺の事じゃないけどすっごいムカつく!!)」




この出来事が昨夜の事。

六太が持ってきたトランプで鳳綺が負けたのはこの数時間後の事。













「ねぇ・・・・・・ほんとにこの格好で一日いないと駄目?」
「駄目!」

鳳綺はブツブツ言いながら自分に纏う服をつまんだ。

「何かチャラチャラしてると動きにくいんだよね・・・・・・・」
「私はすっごい楽しいけどね」

曇った顔とは反面に自分の女御は楽しそうだった。

「・・・・・・苫珠、楽しそう・・・」
「当たり前でしょ。あんたいつも汚い格好なんだから」
「汚いって・・・・・・・・」
「あ~綺麗にさせるのって楽しーー!」
「嫌味で言ってるでしょ・・・・・・」
「そうよ!欲求不満なのよ!あんた女御の仕事わかってないんだから!」
「・・・・・・・・・・」

素直に黙りこむ。

目の前には椅子に座った金髪の少年。
こちらも非常に上機嫌で鳳綺を見上げていた。

鳳綺は綺麗なんだからちゃんと着飾らないと!」
「うぅ・・・・・・・・本当に罰ゲームだ・・・」
「うんうん。だんだん王后らしくなってきた」
「~~~~~(涙)」

心で泣いてると急に顔を横に向けさせられた。

「え?!ち、ちょっと苫珠!」
「何よ」
「口紅まで塗るの?!」
「何言ってんのよ。めいいっぱい着飾らせてもらうわよ」
「た・・・・・助けて~・・・・・!!」
「「助けない助けない」」

取り囲む2人がハモった。











「お~い、入るぞ~~」

ひょこっと覗くと、いつも通りのめちゃめちゃ不機嫌の主とめちゃめちゃ笑顔の朱衡がいた。
今日は本当に緊迫してるらしくて帷湍も成笙もいた。


「・・・・・何の用だ」
「イヒヒ~!いいもんあるんだけど見る?」
「何だそれは。俺は今非常に機嫌が悪いんだが?」
「主上、手が止まってます」
「・・・・・・・・・・・・・・・・(怒)」

顔を上げる事さえも許されない尚隆。


そんな事に全く関係がない六太は上機嫌。
それに、ちょうどみんな集まってるから都合がいい。


鳳綺~!入ってきていいぞ~!」
「え~?!・・・・・・・・・・・恥ずかしいよ~・・・・・」




恐る恐る入ってきた鳳綺に、部屋の空気が固まった。

緊張からではない。



見事に着飾った女性。
豪華な刺繍も煌めく装飾品も、鳳綺の前ではただの引き立て役になる。

黒真珠のように艶やかな髪は何束にも分かれて装飾で留められている。
溢れる白銀の光と、形の良い唇を鮮やかに彩る真っ赤な口紅。
悩ましげにに伏せられた睫が色っぽくて、誰もが息を飲んだ。



「こ、后妃・・・・・・?」

普段は笑った顔しか見せない朱衡もほんのり頬を染めて放心していた。
六太が胸を張って威張った。

「じゃじゃじゃ~ん!めちゃめちゃ綺麗になっただろ!」
「やだ・・・・・・恥ずかしい・・・・・」

鈴が鳴るような鳳綺の仕草にさらに男達の鼓動は早くなる。

完全に固まっていたのは帷湍と成笙。
声も出ないようで石化していた。


「・・・・・やっぱり変ですよね・・・・?」
「そ・・・・そんな事はありませんよ。とても綺麗ですよ」
「あ、ありがとうございます朱衡様」

ふわっと笑う鳳綺は朱衡がたじろぐ程の威力を持ち、
連れてきた当の六太でさえ呆けさせた。


鳳綺は慣れ親しんだ人以外の前に出たり、恥ずかしがったりすると急に大人しくなる。
上品な仕草をしたり、元々顔立ちもいいがそれを更に上回る色気が出る。

だから無邪気な鳳綺に慣れていた面々は、こうして鳳綺の大人の女性としての魅力を再確認させられる事になった。






面白くないのは紛れもなく尚隆。

いくら信頼を置いている下官であっても、これだけ自分の女に見惚れられたら腹も立つというもの。

「・・・・・・・・・・・・鳳綺

今まで朱衡達と談話していた鳳綺は、一番感想を聞きたかった人の前に出る。

「えへvやっぱり動きにくいや」
「・・・・・・・・・・・・・」
「?・・・・・・何か怒ってる?」
「・・・・・・・・・・・・・」

尚隆は何も言わない。

「・・・・・・・・・・尚隆?」

鳳綺は机を乗り出して覗き込んだ。

次の瞬間、鳳綺の唇は塞がれた。

「!!んん・・・・・!!!」

誰もが目を見開く中で、さらに尚隆の舌は鳳綺の中に入り込んだ。

逃げようと思っても、頭を掴まれて離れられない。
自由な足だけをバタバタ言わせて、その行為が終わるまで必死に恥ずかしさに耐えた。



「こ・・・・・・・・こ、こんな所でっ・・・・!」
「ご馳走様」
「!!!」

ペロッと唇を舐める仕草をする尚隆に、さらに恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にさせた。
尚隆の唇には鳳綺の真っ赤な口紅が移っていた。



「ば・・・・・・・・馬鹿ーーーーーー!!!」
「あ・・・・鳳綺!」


潤んだ瞳は居たたまれなくなって執務室を飛び出していった。
それを六太が追っていった所で部屋はようやく静けさを取り戻した。





「・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・」




パラ・・・・・・・


尚隆が鳴らした紙の音で、ようやく全員の石化が解かれた。
それでもやはり口を開くのは朱衡。

「しゅ、主上・・・・・・・・」
「何だ」
「・・・・・・素直に言えばよろしかったのに・・・・・」

『何をだ?』とは聞かなくてもわかる。

「ふん・・・・・お前も見惚れてたくせに」
「そ・・・・・・それはそうでしょう。后妃は元々容姿には優れてますから・・・・・」
「そんな事までは聞いてないつもりだが?」
「・・・・・・・・・・・・」

まだ朱衡にも動揺が残ってるらしい。

そんな顔もさらに怒りをつのらせる要因になった。





「・・・・・・・・・・・・・あいつは俺だけに笑ってればいいんだよ」



「・・・・・・・・何かおっしゃいました?」
「いや・・・・・・」

尚隆はおもむろに立ち上がった。

「どちらへ行かれるおつもりで?」
「決まっている。鳳綺の所だ」
「まだ執務が残っています」
「そんな事言ってる場合ではない。馬の骨を排除するのが先だ」
「私もそんな事を許してる場合ではございませんので。執務を早くお済ませになればいいでしょう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「執務を終わらせるまでは、部屋からは一歩たりともお出ししませんので♪」
「・・・・・・・・・・・・・・この野郎・・!」
「それに、台輔も一緒におられるようですから大丈夫でしょう?」
「・・・・・・・あの馬鹿は余計に信用ならん!」
「そうですか?でも台輔も―――――」
「あ~・・・・くそ!こんなやり取りも時間の無駄だ!!」

尚隆は頭を掻きながら席に戻った。

「終わったら出してくれるんだろう?!」
「それはもう、いくらでも行ってらっしゃいませ。くれぐれも官達を殺さないように(にっこり)
「その言葉忘れるなよ!!」


尚隆は猛烈な勢いで書類の山に手をつけた。


帷湍と成笙は、延王の気合いの雄叫びを久しぶりに聞いたと、後で官に漏らしたという。














「もう!尚隆の馬鹿!みんなの前でやらなくたっていいじゃない・・・・!」

いつもの鳳綺で大股に廊下を歩く。
豪華な服装が水の泡になる。

「あ、鳳綺!」
「・・・・・・・・台輔」

一応、他の官がいる所では『台輔』と呼ぶ事にしている。

しかし見られた事が異常に恥ずかしくて早足で逃げる。

鳳綺ってば!」
「な・・・・・・何?」

追い付かれて見上げられる。

「その・・・・・いつもの事だし、気にすんな?」
「・・・・・・・・尚隆の馬鹿」


駄目だ。さっきのでいつもの鳳綺に戻ってるな・・・・・・・


六太はよし!とばかりに鳳綺に耳打ちした。

鳳綺・・・・・・回りの奴等見てみな?みんな鳳綺が綺麗で驚いてんだよ?」
「え・・・・・・?」


確かに、顔を上げると、数人の官達が此方を見ていてさっと目を反らした。


恥じらいを取り戻す鳳綺

「やだ・・・・・やっぱりこの格好似合わないんだよ・・・・・・」
「んな事ないって!じゃ、行こうか」
「え?ど、何処に?」
「散歩」
「えぇ~・・・・?!この格好で?!」
「罰ゲーム罰ゲーム♪」
「うぅ・・・・・・・・・・」

手を引かれるまま、六太の後を付いていった。






この後、玄英宮は大騒ぎになった。


六太が色んな所に連れ回すものだから、官達は大慌てだった。

麒麟とさらに幻の王后までもが連れ立って歩いている。
上機嫌の六太と躊躇いがちに俯く鳳綺

すれ違う男達はその容姿に圧倒され、あまりの美しさに思わず平伏を忘れた官までいた。

鳳綺達がいなくなった後も、頬を染めた男達は立ち尽くしていた。
しかし、しばらくしてもの凄い形相で走ってくる延王にどす黒い目で睨み付けられ、今度は顔を青くした。












鳳綺!!」




「あれ、早かったね尚隆」

尚隆が溜めに溜めた仕事を猛スピードで終わらせ、
玄英宮中の男達に睨みをきかせてきた後、後宮に走ったが鳳綺はいなかった。
もしやと思い正寝に戻ってみると案の定そこにいた。

帯を少し緩めた状態で、寝台から出した足をブラブラさせていた。
ぱあっと花が咲いたように笑う鳳綺
格好とはまるで違う少女じみた仕草に、思わず顔が綻んでさっきまでの勢いがしぼんだ。

「何でこっちにいる?」
「だって・・・・服緩めると苫珠が怒るから・・・」

そう言って鳳綺は襟元を軽く開いた。
浮き出た白い肌に目が釘付けになるが、ほとんどない自制心を保った。

鳳綺、ちょっと立ってみろ」
「え?うん・・・・」

尚隆は上から下まで鳳綺の盛装を眺めた。
その視線に気づいてだんだんと顔が赤くなる。

「やっぱり・・・・・変?」

上目遣いに見上げてくる銀の瞳が不安そうに輝いた。

「いいや・・・・・・・」
「ほんと?六太とやった『とらんぷ』で負けたから一日この格好のまま歩かされて疲れたよ・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・あの馬鹿のせいだな・・・・
「?尚隆?」
「いや・・・・・・」

一瞬黒いオーラが発せられたが気のせいだったかもしれない。

「それよりさ・・・・・・何で朝さ・・・・みんなの前で・・・・・」

鳳綺が言いたいのは、尚隆が皆の前で唇を奪った事件の事だろう。
拗ねる姿がまた色っぽい。

尚隆は鳳綺を抱き寄せ、背中側で自分の手同士を組んだ。

「わからんか?」
「・・・・・・・・・・・・・そこまで自意識過剰じゃないので」
「いいさ、自惚れさせてやる」






「他の奴等の前で、綺麗に着飾られて笑うお前を・・・・・・独り占めしたかったとな」



耳元で甘く囁いてやるとそれに反応して体がビクついた。
白い肌が紅潮していくのがわかって嬉しくなった。






「それに・・・・・」

尚隆はまだ口紅が残っている唇を親指で触れた。
そして触れるだけの口付けを何度も降らした。

「ん・・・・・・・・・」

顔が離れていくと、尚隆の唇にはまた鳳綺の赤い口紅がついた。

「この口紅は俺だけのものだからな」

口角を上げて笑うその姿が妖艶で鳳綺は思わず俯いた。

「・・・・・・・・口紅・・・取れちゃったよ・・・」
「俺のものだからな」
「・・・・・・・・・・馬鹿」

くすぐったくて尚隆の背中に腕を回した。

「じゃあ、また私が口紅つけたらさ・・・・・・」
「いくらでも拭ってやる」
「・・・・・・・・・・・・じゃあ・・・・もうつけないっ・・・・!」

尚隆の腕の中で鳳綺は微笑んだ。
誰にも見せない、尚隆だけに見せる笑顔で。









「・・・・・ん・・・・・っ・・・尚隆・・・もう・・・・いいって・・・・・!」

再び唇が塞がれたものの、一向に離そうとしない尚隆。
逆にだんだん激しくなっていく唇への愛撫。

「・・・・・・・・・・わからせてやる」
「な・・・・・何を・・・・?」

尚隆はその唇を首筋に持って行って、白い肌を吸った。
いくつもの紅い跡が付くたびに、鳳綺は身をよじって反応した。

「んっ・・・・・・・・・そんな・・・・見える所にやらないでよ・・・・・・」
「・・・・・・・・・お前は俺のものだ」
「えっ・・・・・」

鳳綺の心臓が一気に速まった。
大人の力なのに、尚隆の表情は子供のようだった。


鳳綺は黒い髪を抱いた。




「私は・・・・・・尚隆のものだよ・・・・」
「用心として・・・・・・・・・害虫が寄りつかんようにしておく」
「害虫って・・・・・・・・・・」

虫扱いされた人達の事を思い描く鳳綺



何かちょっと・・・・・・可哀想だな・・・・・・・・・・



そんな事を思っていると、急に強く手首を押さえられた。

「い、痛いよ・・・・!」
「他の男の事を考えてるからだ」
「私別に男の人の事を考えてた訳じゃなく・・・・・んんっ・・・・・・!!」

舌が容赦なく鳳綺の舌を絡める。

さっきまでとは違った感覚で背筋が震える。


「これから他の男の事を考えたら舌を入れる」
「え?!でも何考えてるかなんてわからな・・・・・・んぅ・・・・・!」



尚隆の、甘い匂いがする。



「はっ・・・・・・んあ・・・・・・・・・」



何も考えられないのに。



「し・・・・・・尚隆ぅ・・・・・っふ・・・・・」



私には尚隆しか頭にないのに。













つぅっと銀糸が伝った。


「・・・・・・・・今は尚隆しか考えてなかったのに・・・・・・・」
「だから舌を入れた」
「・・・・・・・・え?」
「俺の事を考えてたから、それのご褒美」
「・・・・・・・・・・・・・」



結局・・・・・・・キスされるんじゃん・・・・・・・・・・








そんな鳳綺のボヤきはまたしても尚隆の唇で打ち消された。


















・・・・・・・・・・ちなみに。



玄英宮ではしばらく、
幻の王后の話で持ちきりになった。


そして、

延台輔が失道したという噂が一時浮上したとかしなかったりとか。

・・・・・・・・・・合掌(笑)











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はい、玄英宮の日常・ドキラブ編でした(笑)
バ、バカップルで脳みそがふやけそう・・・・・
ひいいぃぃ!!!ギャグが書きてぇ!!(心の叫び)

また六太の扱いが酷い・・・・。
六太も虐めやすくて好きです(笑)

一番動かしにくいのが・・・・・尚隆かな(爆)
だってぇ・・・・・どんなにアホやっても最後は必ず格好良くしないといけないからさぁ・・・。
ほら、戦隊ものTVで最後に必ず合体ロボで戦う感じで(笑)