ねぇ尚隆・・・私、幸せだよ?
一緒に生きるようになってから、もう百年は軽く経ってしまったけど。
貴方が少し甘えてきてくれたり、意地悪されたり、
そんな風に翻弄されてしまうのも好きだけど。
知ってる?
貴方が傍にいるだけで、それだけでいいっていう気持ちを・・・
抱きしめたい
朝日の中で佇む尚隆は、どこかこの世の者ではないような力を放っていた。
夜あんなに激しく私を抱いた、適度に筋肉がついた体は良質な装束の中に隠されて。
今はただ王としての聡明さだけを秘めた漆黒の瞳。
既に着替え終わっていた私は、ずっと窓際の尚隆だけを眺めていた。
恐らく私は、一日尚隆だけ見ていろと言われても全然苦じゃないと思う。
それどころか時間を忘れて魅入ってしまう自信がある。
時々こうやって、新婚の頃の戻ったかのようにただ尚隆を惚れ直してしまうのは何故だろう。
会いたくても会えなくて苦しかった頃の夢を見たから?
それとも昨夜、気絶するほど愛してもらったから?
わからないけど・・・ふと、好きだとまた自覚してしまう。
「鳳綺、いい加減俺に穴があくんだが」
そう意地悪く口元を上げられても、それすらも見惚れてしまう時期なんだから始末に負えない。
「そしたら縫ってあげるから」
「それなら、この上衣はつぎはぎだらけになるな」
尚隆は笑いながら鳳綺に近づくと、吸い付くような滑らかな頬に手を添えた。
一心に見上げてくる白銀の瞳を見つめると自分までもが身動きが取れなくなると、
尚隆は誰にも聞こえないように呟いた。
心のままに鳳綺の艶やかな髪を指で梳き、紅く発色する唇を奪った。
・・・閉じられる前の尚隆の瞳は、何て穏やかな色をしていたのだろうか。
そればかりが頭を占めていて、自分は目を閉じる事すらも忘れていた。
「満足したか?」
「・・・・・・」
本当は満足し足りない。
もっと、触れていたかった。
鳳綺は少し躊躇いながら胸のあたりをキュッと掴んで、それからゆっくりと背中に手を回して抱きしめる。
尚隆は背が高くて抱き込むなんて事はできないから、
脇の下あたりから伸ばした腕でギュッと厚い胸板を引き寄せる。
頬にあたる滑りのいい衣装の生地、慣れているはずなのに頭の先まで酔ってしまいような香。
適度に締まった、それでも柔らかいと感じる感触、温かい人の体温、そして静かな鼓動の音。
私は、何よりも尚隆の温もりが好き。
この胸の中は・・・今は、私だけがいてもいい場所。
誰にも盗られたくないと本気で思っている。
「どうした?」
「・・・ううん、どうもしない」
こうしていると、どうしてか泣きそうになる。
「・・・お前は、時々こうやって抱き付いてくるな」
「・・・・嫌?」
「そんな事ある訳がないだろう」
これをされると、どうしてか泣きそうになる。
「なあ、これは何て伝えてるんだ?」
「・・・・わからない?」
たぶんそれは、嬉しくて、愛しくて、温かくて・・・ありがとう、という心の涙。
じんわりと胸を熱くさせて、焦がれる愛の証。
「分かりやすすぎて、逆に聞きたくなる」
それは、幸せすぎて泣きそうだと言われていた。
以前に、『幸せとは何だ?』と尚隆に尋ねられた事があった。
行こう、と言われてゆっくりと体を離して部屋を出ようとした時。
ふいに手に別の体温を感じた。
「え?・・・・どうしたの?」
一本一本、指を絡ませるようにして手を繋がれた。
力強く引っ張られるようなそれではなく、綿に触れるようにそっと。
そう、抱かれている時よりも優しくて。
「・・・わからんか?」
そう言った尚隆は少し俯いていた。
慣れない事をしているからか、恥ずかしそうに微かな笑みを浮かべて。
胸がキュッと締め付けられるのは、辛い思いをしている時だけじゃないんだと。
尚隆と会って初めて気がついた。
「ううん・・・分かりやすすぎて、聞いてみただけ」
――――幸せだと。
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朝からイチャついてんじゃないわよ! by苫珠
私にしては珍しく甘め。
第一部の修正作業しながら思い付いた小話。