「ねぇ尚隆・・・・・・怒ってる?」
そう問いかけても顔すら上げてくれない。
周りの人達・・・・・朱衡様や成笙様は居心地悪そうにしてる。
「執務中だ」
わかってるよ、だけどそんなに不機嫌オーラ出してるから謝りに来たんだよ。
いい加減にこっち向いてよ。
「・・・・・・じゃあそんな面白く無さそうな顔しないでよ」
「悪かったな、これが普通だ」
「・・・・・・・」
口喧嘩では絶対に勝てるはずがない。
でももう1週間こんな調子、いい加減に仲直りしたいのに。
「用がないなら帰れ」
もう、尚隆の頑固者!
「・・・・・尚隆ってば!」
「何だ、俺は話す事など何もない」
「~~~~~!もう知らない!」
そう言って王の執務室を飛びだしたのは少し前の事。
愛情表現
「・・・・・・で?何で喧嘩になったのよ」
後宮の王后の為の執務室で鳳綺はウジウジと筆で「の」の字を書く。
始めはいつもの事と相手にもしなかった苫珠だが、
ふくれっ面で執務をする鳳綺が鬱陶しくて、やはりいつもの如く口を開いた。
「え・・・・・その・・・・」
だけど鳳綺は言葉を濁した。
いつもだったらここで堰を切ったように『聞いてよ苫珠!』なんて泣き付いてくるのに。
今日は微かに頬を赤らめた。
「何よ、はっきり言いなさいよ」
「う、うん・・・・・」
だけどまだモジモジして言い出そうとしない。
恥ずかしそうにして躊躇う様子で、何となく喧嘩の原因がわかる。
だけど助けてやる気は一切ない。
「ほら早く言いなさい、こっちだって暇じゃないんだから」
「え、うん・・・あのね・・・・・」
―――それは約1週間前のいつもの夜。
尚隆が仕事を終えた後に後宮に来るという事で鳳綺はその準備をしていた。
身を綺麗にして髪を梳き、少し色っぽい服を着て。
だけど時間もあったから寝台でゴロゴロしているうちについ寝てしまった。
「・・・・・・鳳綺」
「ん・・・・・」
気がついたら尚隆がのし掛かっていて服もいつの間にか乱れていた。
「ふ・・・・・ぁ・・・」
口内を掻き回されて、覚醒しかかった頭がまたぼうっとする。
「・・・・・尚隆・・・・・やだ・・・」
「大人しくやめると思うか?」
尚隆の手は止まらない。
・・・・・・だけど仕事の事とか色々、今日はいつも以上に忙しかったから・・・・・
「ねむい、の・・・・・」
「いつまで寝ぼけてるつもりだ」
「・・・・・ん~・・・・・・・・・おやすみ、尚隆・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・おい」
尚隆がいるにも関わらず、手を払いのけて眠ってしまったんだ―――
「・・・・・・・・アホらし」
頭を掻きながら苫珠が一言。
その呆れた様子とは正反対に鳳綺は至って真面目。
「でしょ?!ただ寝ちゃっただけなのにあんなに怒る?!」
「はぁ・・・・よくそんなので毎回喧嘩する気になるわね」
些細な事で口論になる2人の仲を毎回取り持つ苫珠にとってはいい迷惑。
喧嘩するほど仲がいい・・・・・そんな言葉があるけど、
喧嘩の原因の程度が低すぎて、ほのぼのを通り越して溜息しかでてこない。
「謝ったのに全然許してくれないし・・・・・あからさまに不機嫌なんだよ?!」
「ん~~まぁ主上も男だし、無性にヤりたい時もあるでしょうよ」
「ヤり・・・・・っ!!」
サラリと出た放送禁止的単語に鳳綺はボッと赤面する。
「何よ、散々相談しといて今さら恥ずかしがるような事?」
「そ、そうだけどさ・・・・!」
「これでも女御なんでね、あんたらの夜の生活の事にも気を配らなきゃいけないんだから」
「・・・・・ぅ・・・」
いくら女御という立場だとしても、
友達に夜の生活を知られるというのは非常に恥ずかしいと感じる鳳綺。
・・・・・・いつ、とか何日周期で、とか事細かにチェックされてたらどうしよう。
指折り数えながらそんな事を考えた。
「・・・・・・で、どうする気?」
モジモジする鳳綺は完全無視。
「どうするって・・・・いくら謝っても相手にしてくれないし・・・」
ふむ、となにやら思考を巡らす苫珠。
「・・・・・・あんた、今から主上の所行って唇の一つでも奪ってきなさい」
「・・・・・・・・え・・・ええ!?」
思わず立ち上がって狼狽する鳳綺。
「どうせあんたって自分から主上に何かした事ないんじゃない?」
「な、何かって?」
「愛の言葉を囁いたりキスしたり押し倒したり」
それはいつも尚隆が先にしてしまう事。
だから自分からあからさまなきっかけを作るのはほとんどない。
「・・・・・・・・・・・・あまり、してないかも・・・・・・・・で、でもそれがどうして関係あるの!?」
「多いにあるわよ。相手からそういう愛の行為ってのをあまりされない、つまり自分ばっかり。
で、大量の仕事を終わらせてやっと相手の所に行ったのに、その女は呑気に寝て自分を拒否する」
「・・・・・・・・・・」
腕を組み立ち塞がる苫珠の前の鳳綺は、さながら説教されて小さくなってる子供のよう。
「・・・・・・・・すごく眠かったんだもん」
「そうかそうか、主上の求愛を『そのような理由』で断ったわけね」
「ぅ・・・・・・・・」
「そりゃ不機嫌になるわ。『俺ばかりお前を求めて、ホントは俺って愛されてない?』って主上でも思うんじゃない?」
「・・・・・・・・・」
苫珠の何やら芝居じみた台詞回しは気にしない事にして、鳳綺は俯いていた目線を躊躇いがちに上げた。
「・・・・・・・思う、かも」
「でしょ?男も結構繊細なんだからね」
「・・・・・・・・・苫珠は何でそんなに詳しいの?」
「普通の思考してればわかるわよ」
「・・・・・・・・・」
・・・・・・それは所謂、私が普通の思考じゃないって言いたいの・・・・?
「・・・・・・・・い、今から行くの?」
いくら謝っても相手にされなかった強敵に対抗する手立て、
それが今から尚隆の唇を奪いに行く事なのだろうか。
「自分の気持ちを素直に伝えてみる事だね、それも主上が予想できないような場面で」
「・・・・・でも今は朱衡様とかみんな執務室にいるよ?」
みんなの前でそんな事できる訳がない。
鳳綺の戸惑いの理由など聞かなくてもわかる苫珠はフンッと鼻をならした。
「あんたが他の人がいる執務室ではそういう素振りを見せない、んな事誰でもわかってんのよ。
だからそれを逆手にとるの」
「は、恥ずかしいよ・・・・!」
「だーかーらー!みんなそう思ってるから驚きで怒りの壁をぶち壊すのよ!」
「・・・・・・そ、そんな・・・・・!」
苫珠の言う事に逆らえない鳳綺は目を潤ませて悩む。
羞恥心を捨てて思い切った行動にでるか、違う方法を考えるか。
「・・・・・・・本当にうまくいくの?」
「バーンと行ってガーンとやってきなさい、必ずうまくいくから」
どうしてそんなに自信たっぷりなのかはわからないが、苫珠は胸を張って答えた。
確かに、苫珠が言ってきた事で失敗した事なんて一回もなかった。
「仲直りしたいんでしょ?」
「・・・・・・・うん」
もう一週間、尚隆は自分に会いに来てくれない。
執務が忙しい時期になればそんな事はザラにあって、もっと長い期間会えない事もあった。
それは仕方がない事だったから、暗黙の了解で互いに理解していた。
だけど今回は違う、せっかく尚隆が来てくれたのに私がその貴重な時間を縮めてしまった。
謝りにいっても全然許してもらえなくて、納得できない日々がずっと続いてる。
モヤモヤな気持ちでこれ以上日にちを重ねていくのはもう嫌だ。
「・・・・・・・わかった」
キッと真剣な表情になった鳳綺は、その足でもう一度王の執務室へと進んだ。
部屋に入ってきた足音が王の机の前で止まる。
横に仕える朱衡やら成笙が何も言わないという事は、その人物が誰かは大体予想がつく。
極力険しい表情を作った尚隆は目線を上げないまま、溜息をつく。
「俺は執務で忙しいんだが」
だけど返事が返ってこない。
「用がないなら――――!」
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
「・・・・・・ぅ・・・・・・・・ん・・・」
怒ったような眉をつり上げた鳳綺がいたかと思えば、鳳綺は机を横切り尚隆に抱き付き、唇を押し当てた。
一瞬で、顔を真っ赤に染めて目を強く瞑る女がすぐ先にいる。
誰もが目を点にさせて注目する中、必死で尚隆の口を開かせようとしてくる。
流れに任せるようにして顎を少し開いてやると、勢いよく鳳綺の舌が入り込む。
そんな積極的だった事ほとんどなくて、半ば茫然とされるがままになっていた。
絡みつく舌、そして聞こえる鳳綺の艶めかしい吐息。
「はぁっ・・・・・・・はぁっ・・・・・!」
唇を離し、荒い息遣いで見つめてくる鳳綺。
強気なキスとは違い、既にいつものような恥じらいを浮かべていた。
「・・・・・・・・・・・・」
未だ硬直が解けない尚隆とその他の侍従達。
「機嫌、直して・・・・・尚隆が部屋にいないと寂しいの・・・・・・ずっと、待ってる、のに・・・・・」
鳳綺は誰かがいる所では恥ずかしがって抱き付きもしない。
拒否された時もそこまで腹が立った訳ではない、確かにその時は怒りに震えもしたが、
鳳綺がどんな反応をするかを試すように不機嫌を装っただけだった。
だが最後は、子供じみた意地のせいで許してやる機会を失っていた。
「1週間もキ、キスしてくれないから・・・・・・わ、私どうにかなりそうなの・・・・・」
鳳綺が人前で抱き付き、しかも女の声を上げるとは。
それが他の奴等に見られるのは癪だが、今はそれに腹を立てている場合ではない。
大事なのは、鳳綺が俺と仲直りをしようと恥ずかしさを全て捨てて俺を求めたという事。
「お願い尚りゅ・・・・・・・・んぅ・・・・!」
今度は尚隆が鳳綺の唇を奪った。
頭を押さえて口を割り、熱い舌を激しく絡め取る。
先程の何倍も強引で、だけどこみ上げてくる想いを乗せるように。
「ふ・・・・・・・・っ・・・!」
「・・・・・その言葉、本当か?」
尚隆は耳元で囁いた。
「う、嘘であんな事言わない・・・・・」
見上げると尚隆は吹っ切れたように普段通りの顔に戻っていた。
それ以上にどこか嬉しそうで終始口角が上がっている。
それはつまり、許してくれたという事。
「・・・・・・ごめんね、尚隆・・・」
「いや、あれはもうどうでもいい」
途端にパアッと花を咲かせるように微笑む鳳綺。
胸の温かみを確かめるように、もう一度尚隆に抱き付いた。
「・・・・・・・寂しかったよ・・・・」
「そうか」
そっけない返事だけど、抱き寄せる腕に力を込めて答える尚隆。
「・・・・・・・鳳綺、すまなかった」
「え、何が・・・・?」
「・・・・・・・・お前を傷つけた」
小声で呟いた言葉に、鳳綺はふふっと声を出して笑ってしまった。
何だかんだ言って、最後は自分の心配をしてくれる尚隆が・・・・・やっぱり愛おしい。
「じゃあ私もごめんね尚隆・・・・・・これでおあいこでしょ?」
「いや、お前の方が何倍も多く謝ってる・・・・・・すまなかった」
「ごめんね」
「・・・・・・・言い返してきたらいつまでたってもお前に追いつけないだろ」
そう突っ込んでくる尚隆にまたしても笑みが漏れてしまう。
そんな温かいような雰囲気になれたのが久しぶりで嬉しくて、
鳳綺は尚隆の頬に手をやった。
「尚隆・・・・・・好きだよ・・・・」
そしたら尚隆も顔を綻ばせて、鳳綺の頬や唇を指でなぞる。
「・・・・・・知ってる」
そしてまた、2人の距離がどんどん近づいて――――
「・・・・・・・・あの、もうよろしいでしょうか?」
「!!!」
やっと我に返った鳳綺は今の状況を思い出して、
背中に冷汗を溜める勢いで恐る恐る辺りを見渡した。
そこには目の行き場に困った朱衡様や成笙様やその他諸々の人達が・・・・・一斉に自分を見ていた。
「!!!・・・・・や、あ、あの、これは・・・・・っ!!」
茹でダコ状態でしどろもどろに言い訳をしようとする鳳綺。
尚隆は邪魔されたと言わんばかりに朱衡を睨み付けている。
尚隆から離れてオロオロと挙動不審に陥っていると朱衡とバッタリ目が合う。
すると朱衡はどこか頬を染めて目線を外し、咳払いをした。
「・・・・・・・后妃・・・・・・・・その、よかったですね・・・・仲直りができて・・・・・・」
『ここは執務室です』みたいな事を言ってくれた方がまだ謝りやすいというもの。
だけど、その必死で考えたらしき温かい祝福の言葉が今はこれ以上もなく恥ずかしい。
「・・・・・ご、ごめんなさいっ!!!!」
鳳綺は駆け抜けるように執務室を飛びだした。
「鳳綺」
もう振り返りたくない部屋から非情にも尚隆の声がかかる。
逃げ出したいのを抑えて、鳳綺は顔だけ扉から覗かせた。
「今夜待ってろ」
言葉で返す事ができなくて鳳綺は微かに首を縦に振った。
―――そして。
「これからお前達に勅命を与える」
ようやく仕事が進みかけた矢先、尚隆は周りの官達を1人1人睨み付けながら告げた。
「今あった事全て記憶から消せ」
后妃のあの瞳、あの表情・・・・あの声。
鮮明に蘇った光景に誰もが一瞬動揺を見せた。
その意味を見破りさらに王は殺気を立ち込めさせる。
それこそここに麒麟がいたら卒倒しそうな程の負のオーラで。
「・・・・・・・・・・はい・・・・・・おおせのままに・・・」
身の危険を感じて、男達は鳳綺の女の部分を胸にしっかりひっそりしまい込んだ。
・・・・・・・・時々は思い出してしまいそうです・・・・・・・・そんな事、主上には死んでも言えない朱衡だった。
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お題&まな様からのキリリク、「人前でラブラブバカップル」なんですが・・・・ちょっと違いますよね?!
ご、ごめんなさい!しかも書き上げるの遅すぎるし!(汗)
朱衡&成笙が酷い扱い・・・・・
成笙なんか名前だけで台詞ないし、朱衡様なんか妄想し始めちゃったし(笑)
ま、いっか!シリアス後のほのぼのラブラブなのでのんびりといきましょう!!
まな様!こんなものでよろしければ受け取ってください!
そして遅すぎて本当にごめんなさい!!